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かこさとしのだるまちゃんとともだち
かこさとしのだるまちゃんシリーズがとても好きである。だるまちゃんが多様なともだちとの交流をとおしてさまざまな世界をみせてくれる。ともだちとは、例えば天狗、雷、大黒、天神、仁王、山姥、虎、うさぎ、りんごといった、民話的な存在や動物、野菜など。こう羅列しただけでもだるまちゃんの幅広い交友関係が伺える。
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最初に読んだのは『だるまちゃんととらのこちゃん』(福音館書店/1987年)。おそらく出産祝いなどでいただいたのだが、いただいた当初は正直、読むには長く感じていた。子どもがまだ小さく、短い絵本しか読み慣れていなかったのだ。しかし年月を経て何度も読むにつれ、その魅力に惹き込まれていった。
まず音がたのしい。絵本は音の響きやリズムが大事なんだな、と読み聞かせをする中でわかってきたのだが、だるまちゃんの絵本は特別音がいい。『だるまちゃんととらのこちゃん』に、こんな歌のフレーズが出てくる。
つばき ひまわり
たんぽぽ れんげ
かきねに ひらく ばらのはな
やさしい におい あかきいろ
リズムなんてわからないが、口に出しているだけで歌っているみたいに読める。
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だるまちゃんシリーズで今のところ一番好きな『だるまちゃんとやまんめちゃん』(福音館書店/2014年)。そこではがけから落ちただるまちゃんを、やまんばあちゃんとやまんめちゃんと、山犬とふくろうとむささびとこうもりが綱を引いて助けるシーンがあるのだが、その時のかけ声がこれ。
わっせの わーせの しっかりと
わっせの せのせの つなにぎれ
わっせの わーせの ちから こめ
わっせの せのせの つなを ひけ
わっせの わーせの あとすこし
わっせの せのせの もうすこし
もう読んでるだけでみんなでいっせいに綱に力を入れるようすが浮かび上がる。我が家の2歳児はこの音を聞くと一緒に綱を引く素振りをする。だるまちゃんシリーズにはこんな風に歌みたいにリズムがよいシーンが必ず入っていて、口に出して読むとたのしいのだ。
だるまちゃんシリーズのおもしろさのもうひとつは、自分と違う暮らしぶりの存在へのあたたかい視点だ。絵本ではいつも、だるまちゃんとともだちとの「違い」がテーマになっている。
例えば『だるまちゃんととらのこちゃん』では、とらのこちゃんのおうちがペンキ屋さんで、自分たちの落書きが親のペンキ業の仕事につながり、だるまちゃんは虎家族に混ざってお仕事し、街の人々と出会ったり、虎家族の子どもみたいにお風呂に入っておやつを食べ、充実した1日を過ごす。
『だるまちゃんとやまんめちゃん』では、山の上に住むやまんめちゃんと出会い、病気のやまんばあちゃんに、ある種都会的な”ネーブル”のお土産を渡し、お返しに木の実やきのこなごの”山のおいしいもの”をいただく。そこには異文化交流のようなコントラストがある。
言葉も対照的で、だるまちゃんが
「ぼく だるまちゃんていうの。きみのなまえは なんていうの」という標準語なのに対し、やまんめちゃんは
「おらの なは やまんめだよ あの やまのうえに すんでるんだ」
と方言やなまりを思わせる言葉遣いになっている。
だるまちゃんの暮らしとは異なる世界を、だるまちゃんがともだちをとおしてみたり体験する。だるまちゃんとの異世界との距離が絵本のエネルギーになり、読んでいる人はだるまちゃんと一緒に驚いたりよろこんだり冒険させてくれるのだ。シリーズをとおして、作者のかこさんの異文化へのあたたい視点が伝わってくる。
あと、こどもはなぜか「だるま」が好きである。かがくい ひろし作『だるまさんが』(ブロンズ出版 2008年)などのシリーズも大人気で、こちらも出産祝いに3冊セットでいただいた。まるくてころころしているキャラクターのシルエットが子どもの心をつかむのだろう。かがくいさんのだるまさんは現代風のライトさがあるが、かこさんのだるまちゃんは伝統的な達磨の特徴を反映していて、口ヒゲの亀もちゃんと描き込まれている。眉毛(鶴)も太い。こども達磨なのに少しおっさんぽくなろうとも、達磨らしい特徴は省略しないのだ。ここからもかこさとしの姿勢がみえる。