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運命の12枚 まだ見ぬ写真

最近自宅に籠る時間が増えたので過去の写真を整理しながら撮影時に考えていたことやシーンを回想しています。これまでたくさんのシャッターを切ってきましたが、見たくても見ることが出来ない12枚の写真があることを思い出しました。

その写真を撮ったのは18歳の時。高校の暗室で写真を現像しながら将来はプロのフォトグラファーになる夢を描いていました。どうやったらその夢を叶えられるのか、それを教えてくれる大人は周りはおらず、毎月20日に発行されるカメラ雑誌や図書館に数冊だけあった洋書の写真集を見て将来へのヒントを必死に探していました。そんな時に雑誌の片隅にある大学の募集記事を見つけます。「生まれたばかりの芸術学部」というキャッチフレーズが目に留まり、写真学科という本格的に写真を勉強できる場所があることを知りました。その大学は日本初の写真学校をルーツに持つと書いてあり、ここに行けば夢が叶うかもしれないと受験を決意。写真部顧問の先生からは「つぶしが効かないから普通の学部に行ったほうがいい」という写真部顧問の先生の反対意見には耳を貸さずに希望進路を決めました。

受験するためにはいくつかの方法があり、僕が選択したのは自己推薦制度。その内容は大学が初めて取り入れたという写真撮影の実技試験でした。事前に通知されていたのは自身のカメラ(当時はフィルムカメラ)を持参、三脚などの持ち込みはOK、撮影フィルムは大学が準備するということだけで試験の内容は当日までわかりません。また今回が初導入のため、過去の試験内容を見ることも出来ませんでした。それでも将来がかかっていると意気込み見ながら試験会場に向かいました。

会場は中野坂上にある大学キャンパス。受付を済ませると大きな階段教室へ案内され、白衣を着た怖そうな試験官の目線を気にしながら固い椅子の上で緊張を押さえるために使い慣れたカメラを握っていました。受験生が揃ったところで何も書いていない白いパッケージの12枚撮りカラーフィルム2本が配布され、そこに氏名を書くと教壇に立った先生から試験内容が発表されました。

撮影テーマ は「未来の自分」。

12枚撮りフィルムどちらか1本を提出すること、ただし現像結果を見ることは出来ない。制限時間は3時間で時間内に制作意図を記した400字以内の作文を書くこと。撮影場所は本キャンパスの敷地内のみとする。

12枚しか撮れない上に現像結果が見れない。。。これには驚きました。撮影した画像を想像するしかないわけです。デジカメなどない時代ですからカメラの操作方法を間違えて写っていなければそれが結果となります。カメラの操作技術も含めた試験なのだと思いました。

今振り返ると出題する側にとっては面白い試験だなと思いますが、受験する高校生にとってはハードルの高い試験でした。

当時どんな写真を撮ったのか、よく覚えていないのですが頭の中で12枚の組み写真を作ると意識した記憶があります。もちろん1枚も無駄なシャッターは切れません。未来の自分=合格してキャンパスを歩く姿を想像してこの場所にいるはずの僕の姿をフィルムに焼き付けようと教室、学生ホール、小さなグランドを歩きながら一枚ずつ慎重にシャッターを切りました。

試験から1週間後僕の手元に合格通知が届きました。封書の中には撮影した写真も合格理由もありません。その後受験した大学は母校となり、写真の世界へ向かっていく足ががりになりました。

まだ見ぬ12枚の写真は何を伝えてくれたのか。それは今でもわかりませんが間違いなく未来への扉を開けてくれた12枚。今でもそこに写っているはずの「未来の自分」を想像しています。

中西祐介

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