失ったものがそこにある
失ったものがそこにある。
朔太郎の詩(うた)である。
朔太郎の詩には「郷愁」という言葉がよく似合う。
高校の授業で萩原朔太郎という詩人を知った。
早速その詩集を買って読んでみた。
結局この詩だけが今でも心に残っている。
昨日にまさる恋しさの
湧きくる如く高まるを
忍びてこらへ何時までか
悩みに生くるものならむ。
もとより君はかぐはしく
阿艶(あで)に匂へる花なれば
わが世に一つ残されし
生死の果の情熱の
恋さへそれと知らざらむ。
空しく君を望み見て
百たび胸を焦がすより
死なば死ねかし感情の
かくも苦しき日の暮れを
鉄路の道に迷ひ来て
破れむまでに嘆くかな
破れむまでに嘆くかな。
その熱き恋ごころよりも、私はその背後にある淡い郷愁のほうを強く感じてしまう。
朔太郎とはそういう詩人である。