入管法改悪反対!多様性に富んだ『9.4 全国一斉行動 in 東京』取材ルポ
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耳を澄ましてデモを探す…
私が集合場所である上野公園・不忍池を訪れたときには、既にデモ隊は出発していていなかった。耳を澄ましてみると、かすかに拡声器の音が聞こえてきたので、その音のする方へと歩いていくと、遠くの方に警察官の姿が見えた。
「見つけた!」
私は、松坂屋前の交差点を渡って、御徒町駅の高架下でデモ行進に追いつき、撮影を始めた。(さっきまで一緒に食事をしていた、校則問題繋がりで知り合った安達晴野さん、塩川遥香さん、高松ひかりさんは早速誰かからもらったプラカードを持って行進に参加していた)
沿道の人の反応は様々で、険しい顔で「なんでここでやるのかね?」と迷惑がっている男性もいれば、デモに拍手を送って激励する女性もいた。
デモ行進はそのまま、春日通りを直進し、区立平成中学校の角を曲がって、ゴール地点の竹町公園に着いたのは15時35分頃。到着後、公園の一角を使って集会が開かれた。
「入管問題」とは何か?
集会の様子を記す前に、一度「入管問題」についての基本情報を整理したい。
日本にやってきた外国人のうち、在留許可の下りなかった人や、ビザが切れてしまった人など、今後も日本で暮らす許可の下りなかった人たちは、各地方にある出入国在留管理局(旧・入国管理局、以下・入管)に収容される。「ここでの被収容者への扱いが人権侵害的な酷いものだ」というのが入管問題の一つである。その代表的な例が、昨年3月6日に名古屋入管に収容されていたスリランカ人女性のウィシュマさん(当時33歳・本名:Rathnayake Liyanage Wishma Sandamali)が適切な医療を受けられないまま死亡した「ウィシュマさん死亡事件」である。
デモの主催団体によると、収容先の名古屋入管は、帰国できない事情を抱えたウィシュマさんを厄介者扱いし、体調不良の訴えを「詐病」だとみなして、まともな治療を受けさせないまま死亡させたという。遺族は真相解明のため、国に訴訟を起こすも、政府や法務省・入管庁は死の責任を認めず、居室にあった監視カメラのビデオ開示も行わないとしており、未だ何があったのか真相はわかっていない。遺族や支援団体は、真相究明や再発防止の徹底を求めて続けている。
もう一つの問題は、現在提案されている「入管法改正案」(正式には「出入国管理及び難民認定法等の一部を改正する法律案」)(主催団体は「入管法改悪」と呼んでいる)が人権侵害を加速させるものだという点である。母国に戻ると殺されてしまうなど、何らかの事情を抱えて、難民として日本にやってきた外国人でも、日本で手続き上、難民と認定されない場合、「不法滞在者」となってしまう(日本の難民認定率は国際的に見てもかなり低い)。そんな外国人を強制的に母国へ帰国させるという入管の権限を強化する案であり、2021年に提案されたときは、「非人道的だ」「先進国なのにありえない」と、大きな反対運動が巻き起こって、結果的に廃案になったものの、また今秋の臨時国会で提出されるという話もあるのだという。
このような事情から、2022年9月4日、「入管の民族差別・人権侵害と闘う全国市民連合」が中心となって、全国10か所(札幌・山形・仙台・東京・高崎・浜松・名古屋・大阪・京都・高知)で「名古屋入管 - 入管庁のウィシュマさん死亡事件の責任を追及し、人権侵害を助長する入管法改悪に反対します!」と、一斉行動が行われたのである。私は、このうち、最多の約200人が参加した、東京のデモ行進を取材した。
ウィシュマさんの妹の願い
まず、死亡したウィシュマさんの妹である Ratnayake Liyanage Wayomi Nisansala Rathnayake(ラスナヤケ・リヤナゲ・ワヨミ・ニサンサラ・ラスナヤケ)さん(29)がウィシュマさんの遺影を抱えながらスピーチを行った。
「入管は妻に離婚を促した」「ゴミのような食事を与えられる」被収容者たちの切実な訴え
次に、主催者が、現在も品川入管・牛久入管に収容されている被収容者からのメッセージを代読した。
「なんで差別するの?助けて!」仮放免者の悲痛な叫び
次に拡声器を握ったのは、自らも仮放免者でありながら、被収容者への面会・支援を続ける、「仮放免者の会」の Elizabeth Aruoriwo Obueza(エリザベス・アルオリオ・オブエザ)さん(ナイジェリア デルタ州アサバ出身)である。そのエリザベスさんのスピーチは非常に心に響くものがあった。YouTubeにほぼノーカットで掲載しているので、併せてご覧いただきたい。
エリザベスさんはその後も、犯歴がないのにも関わらず、オーバーステイというだけで牛久入管に8年間も収容され、やせ細ってしまった難民の男性の写真などを紹介、最後に、
と訴えると、聴衆から拍手が巻き起こった。
その後、主催者が立憲民主党代表代行の西村智奈美衆議院議員と日本共産党の本村伸子衆議院議員からのメッセージを代読。
最後に学生メンバーの曽根佑太郎さんが
とスピーチを述べて集会は閉会した。
目立った参加者の多年齢・多民族・多性別
このデモの特徴、すなわち他の多くのデモと異なる点は二つある。
一つは、主催者が大学生を中心とした団体であるということ、もう一つは非常に多様な人々が参加していたという点だ。
東京で行われたデモの主催団体である「BOND ~外国人労働者・難民と共に歩む会~」(注:読みは「バンド」であり、「ボンド」ではない。よく間違われるとのこと)は、約80名いるメンバーのうち、50数名が大学生で、5名が高校生である。このため、デモ参加者の平均年齢も、他のデモと比べて、かなり若かったように思われる。
今まで多くのデモを取材してきたとある記者は、「他のデモは若い人が圧倒的に少なく、高齢者が多い。40代の私が最年少ということも珍しくないし、警備している警察官のほうが圧倒的に若いこともある。このデモは若い人が多くて嬉しい。」と話してくれた。
「BOND」メンバーの降旗恵梨さん(立教大学3年)によると、「メンバーは、ウィシュマさんのニュースを観て入ってきた人や、NHKのドキュメンタリー番組、ドキュメンタリー映画『牛久』(牛久入管に関する映画)を観てきた人も多い。多くは、一人で自発的に調べて、見つけて、連絡をくれた人だ。」とのこと。
同じくメンバーの加納茜さん(上智大学3年)は、「上智大と獨協大には支部があるが、他大学の学生も多く、インカレのようになっている。私は、授業で入管問題について習い、関心を持った。」と団体に入ったきっかけについて話してくれた。
また、このデモには、非常に多くの民族が参加していたように思われる。具体的な数字は不明だが、ウィシュマさんの母国であるスリランカを始め、白人、黒人、アジア人など、日本民族以外の民族の数もかなり多く、英語のプラカード、スピーチも目立った。
デモに参加した、スリランカ出身のディセッロさん(40)は、「ビザが切れてしまい、品川と牛久の入管に2年半収容されていたが、病気になって出された。今は、働くこともできず、心療クリニックに通いながら、シェルターで暮らしている。母国へは事情があって帰ることができないが、母が一人で暮らしている。全く親孝行もできず、先も見えない」と現状を明かしてくれた。ディセッロさんのほかにも、在留許可を待っている人や、仮放免中の人が多く参加していた。
多様だったのは、世代や民族だけではない。性も多様だった。男女のほかにも、性的マイノリティの人たちがレインボーの旗を持ってデモに参加しており、今回のデモは、非常に多様性に富んだ人々が参加していると感じられた。
スリランカ出身のディセッロさんは、自分が外国人であることを理由に、自分を卑下し、自信をなくしていた。私たち人間は生まれながらに人権を保障されているはずであるのに、私たちは同じ地球という星に生まれたのに、なぜ難民というだけで、在留許可がないというだけで、人権侵害的な扱いを受ける人が出てきてしまうのだろう。確かに、現在の法律では、オーバーステイは法律違反だ。(私は現在の法律にも問題はあると思うが)しかし、法律違反をしたからと言って、人権をはく奪されて良いわけではない。適切な医療を受けられずに死んでしまって良いはずがない。もし、器物損壊で逮捕された人が死刑になったら大騒ぎになるだろう。日本政府は入管制度をもう一度見直し、収容者の待遇改善と、難民認定条件の緩和を行う必要があると感じている。
執筆/写真:中村眞大(2002年生まれ、明治学院大学2年、フリーで取材活動を行う)
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