伝染性紅斑(りんご病)について
はじめに
頬が赤くなる様子から「リンゴ病」と呼ばれている感染症「伝染性紅斑」が流行しています。多くの子どもたちは軽症か無症状で、健康上の問題になることは稀です。一方で、妊婦さんや一部の遺伝性の血液疾患のある患者さんにとっては心配な病気であることも事実です。実際にはあまり有効な予防策がない感染症ですが、正しい知識・情報を得ることで、少しでも不安を解消してただければと思います。
原因・感染経路
伝染性紅斑の原因は、パルボウイルスB19というウイルスです。パルボウイルスは50以上の種類が確認されていますが、パルボウイルスB19はその中の1種類で、ヒトと類人猿以外には感染しません。ヒトからヒトへの感染は、主に咳やくしゃみなどを浴びることで感染する飛沫感染、これらの分泌物が直接または間接的に粘膜に触れることで感染する接触感染によって生じます。集団生活を送る幼児から小学生を中心に流行が繰り返され、15歳くらいまでに約半数のヒトが感染すると言われています。国内での流行は約5年毎に発生し、過去にはその流行は2年間続くことが多かったです。COVID-19流行後、数年来流行がない状況が続いていたこともあって、今後、現在の流行どのような動きをみせるかの予測は難しいです。ちなみに、ヨーロッパでは2023年末から、アメリカでは2024年から日本と同様にパルボウイルスB19の流行が続いています。
症状
健康な子どもはパルボウイルスB19に感染しても、軽症または無症状であることも多いです。ウイルスに感染すると7〜10日後にウイルス血症が起こり、この時期には軽い発熱や頭痛・寒気・筋肉痛などの症状がみられることがあります。感染力のある状態ですが、頬の赤み (紅斑) など発疹もなく、他のかぜ(ウイルス感染症)と区別はつきません。感染後14〜18日後くらいになると、約30%の患者さんで頬に紅斑が出現し伝染性紅斑と呼ばれる状態となります。この状態になるとすでに感染力はありません。伝染性紅斑では、頬と同時か数日遅れて腕や足にも紅斑が出現することもあるため、診察では頬だけではなく四肢の皮膚にも注意します。関節の痛みや腫れがみられることもありますが、大人で多く、子どもでは少ない症状です。その他では、まれに急性脳炎・脳症の原因となることや、遺伝性球状赤血球症など先天性溶血性貧血の患者さんで無形成発作とという重度の貧血を起こすことが知られています。
妊娠中のパルボウイルスB19感染は、胎児への影響が生じる可能性があり、妊娠の早い時期はリスクが高くなる傾向があります。妊婦さんの約30〜40%は十分な免疫を持っておらず、免疫のない妊婦さんが感染した場合に、胎児も感染する率は25〜50%と推測されています。感染により、胎児に重度の貧血が生じることで、胎児水腫という状態になることがあります。しかし、胎児水腫の発生頻度は決して高くはなく、感染した妊婦さん全体での発生率は3〜4%と報告されています。また、感染によって胎児に奇形が生じることはほとんどないともされています。
診断
一般的には検査ではなく診察によって診断されます。検査は、血液を用いた抗体検査やPCR法などの遺伝子検査が存在しますが、保険適用も一部のみでしか認められていません。検査による診断は、重篤な合併症がみられる場合に実施されるものであり、通常は小児科外来で行うことはありません。
治療
伝染性紅斑は多くのウイルス感染症と同様に自然治癒するものです。皮膚のかゆみがあればかゆみ止め、発熱や関節の痛みがあれば解熱鎮痛剤などの対症療法を行います。紅斑は7〜10日程度で自然に消えていきます。有効な抗ウイルス薬はありません。
予防
現状で使用可能なワクチンはありません。感染力は紅斑出現前の無症状または軽度の発熱などがみられる時期にあり、その段階で伝染性紅斑を予測して対応することは難しく、日常的な手洗い・咳エチケットなど、一般的な感染予防策が重要かつ数少ない対策となります。妊婦さんの対策については様々な意見がありますが、胎児に影響が出る可能性があるサイトメガロウイルスへの対策も含めて、子どもの体液に触れることへの注意 (食器・食物の共有を控える、体液に触れた後の手洗い) が重要です。また、学校保健安全法で第三種感染症に指定されていますが、伝染性紅斑と診断される段階ではすでに感染力がない状態であるため、全身状態が良好であれば通常は登園・登校の制限はありません。
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