パラレル 5
少し本格的に秋風がふいてきましたね。
パラレルもNO5になりました。 ここまでくると、一から読むのもなあと思われるかも知れないですね。 ですよね。
今期始まった朝ドラと同じ20年前のお話です。
そのころ、なにしてたか思い出しながら読んで頂けたら嬉しいです。
マガジンには、1か5までまとめてます。 よろしくお願いします。
遥人の部屋の明かりが漏れている。
鍵を探して、がさがさしていると、カチャッとロックの外れる音がして、遥人の顔が覗く。 いつもと同じだ。 「おかえり、お母さんなにこんなに買ってきたの?」と遥人は、袋二つを持ってキッチンに運ぶ。
「重てーな、鉛でも入ってんのかよ」狭いキッチンに満杯の袋が並ぶ。
チラッと遥人と目があった。
遥人も私もすぐに視線を外したが、もう一度遥人を見た。
遥人はなんだよとは言わない。
私は「遥人も?」って聞いてみた。
「なにがだよ。 意味わかんねーし、腹減ったー、何かすぐに食えるものないの?」 「ない!」 「こんなにあるのに?」
「ない! 今ご飯作るから、腹は減らしといて」
遥人はしぶしぶ部屋に引き上げていった。
買った物を、冷蔵庫にしまうだけで、かなりの時間がかかり、遥人が取り込んでくれてあった洗濯物をぼんやり畳んでいたら、どんどん時間が過ぎて、夕食ができた頃には、明日実が帰ってきた。
「おかえり」明日実には聞こえないらしい。
「おかえり!」 「あーあただいま、みんなご飯これから?今日遅くない?」 「ほんと、遅くなっちゃった。遥人! ご飯」
9時近くなって3人は食卓についた。
遥人がリモコンで、テレビをつけるが、テレビは無反応だ。
「あれリモコン壊れた?電池ないのかな?」
待機の赤いランプはついている。
遥人が、本体のスイッチを操作するが、なんの反応もない。
「変なの! もういいや飯食おう」 「えー見たいのあるんだから、直してよ」 「だったら自分でやれよ!腹へってんだから」 「いいよたまには静かで」 私には最近バラエティーも歌謡番組も雑音にしか聞こえない。
移り変わりの目まぐるしさに、ついて行くのが、馬鹿馬鹿しくなった。
「えー何それアリエナクナイ・・・そうだ 今日ね、部活でミーティングやったんだけど、目の前に座ってた先輩がね、薄目開いてるんだけど、黒目がスーッと上にいっちゃってるわけ、可笑しくてクスクス笑ってたらコーチに怒られちゃったよ。 ずーっとだからコーチも気付いて「きんちゃん!」って呼んだんだ。 そしたらきんちゃん先輩「はい!」って一回起きてシャキッとしたんだけど、座ったらまた白黒始まって、後ろの扉開けたら、ひっくり返っちゃったよ」 「その先輩って、走る時どんな感じ?」
「うーん、そう言えばあんまり変わらないかな?こんな感じ」
と明日実は薄目の白眼を、してみせる。 可笑しい!
明日実の話はテンポがあって、面白い。
私が、笑い転げていると、遥人が「俺も今日面白いことあったんだ」と始まる。 はっきり言って遥人の話は、想像力をかきたてる種類とはちょっと違っていて、意味を理解するのに気を取られて笑えない。
「面白いでしょ」って言われて「うん」と言うのが精一杯だ。
明日実は「それが、なに?」とかなり辛辣。
遥人は笑いで明日実と張り合わな方がいいと、常々思っている。
その時だ。 テレビが突然付いた。
ニュースキャスターは、SARSのこと、大阪の小学3年生の行方がまだわからないこと、東北の地震のことなど、ひととおり話し、天気予報が始まった。
私達はあっけに取られていた。
天気予報が終わると画面はピタッとと消えた。
私達ははしを持ったまま、顔を見合わせた。
「今日さー」三人が同時に口を開いた。
「エレベーターみたいなので学校いった」明日実が言った。
「俺も」 「母さんも・・・・・」 なんらかの不可抗力が、私たち家族に向けられていた。 それはあまりにも非現実的で、人に話せることじゃなかった。
でももしかしたら、誰も話さないだけで、どこの家にも起こってるって可能性もある。 もしそうだとしたら、この地球上には、私たちの目測よりも、かなり多くの人が、次元を違えて暮らしていることになる。
私たち三人にとっては今のところ、重大な不都合もないが、これが続けば、困ることも出てくるかも知れない。
いろんな不安もある反面、私たちはこの奇妙な現象に興奮状態だった。
そして、くる日もくる日もボックスは現れた。
つづく
ナカムラ・エム