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『蛇にピアス』の闇を考察した


 このところ金原ひとみさんの『アンソーシャルデイスタンス』『ミーツ・ザワールド』『アタラクシア』など、図書館にあるものは、ほぼ読ませて頂いています。
デビュー作の『蛇にピアス』だけがいつもありませんでした。
予約しようかとも思ったのですが、まあ急がなくても気長に待とうと思っていました。
先日、図書館に本を返しにいったら、改装のため2月まで休館になるようでした。
そこで、帰りに階下の本屋さんによってみたら、文庫本があったので、購入しました。

 この『蛇にピアス』は金原ひとみさんが19才の時のデビュー作です。
2003年にすばる文学賞、2004年に芥川賞を受賞されています。

 読み始めて、かなり日常にない世界観でしたので、興味深く没入することができました。
主人公のルイは19才で、陽の光の届かないアンダーグラウンドの住人でいたい、子供の笑い声や愛のセレナーデが届かない場所に生息したいと言います。
こういうアウトロー的な考えは多かれ少なかれこの世代には、ありがちかと思います。
「スピリットタンって知ってる」と聞かれて、そのトカゲみたいな舌に見とれてしまいます。
「君も身体改造してみない?」という男の言葉に、首を縦に振っていました。
そしてそのスピリットタンをやるために連れて行かれた店は、ピアスと刺青のまさにアンダーグラウンドの店でした。
トカゲの舌をもつアマは、左眉に三本4Gの針型のピアス、下唇にも三本同じピアスを刺している。 タンクトップからは龍が飛び出し、真っ赤な髪はサイドが切り込まれたモヒカンとかなり目立つ見た目です。
とりあえず舌にピアスを入れたルイは、なしくずしにこの男と同棲するようになります。
アマは見た目とは裏腹に、実際には未成年だし、子供っぽいところがあります。
まずは舌に入れたピアスを少しずつ拡張して行って最終的には舌を二つに割く・・・。    それを注目して見守っているアマがいることで、この計画は生き生きと成立します。
次には二の腕と背中にかけて龍と麒麟の刺青も実行に向かっていきます。
しかし、ルイはこの刺青を入れた直後から、生きる力を失ったようになっていきます。   ルイにとってはその痛みを伴う過程にこそ、意味があったのだと思います。 
アマの所で仕事もしないで、次第に酒浸りになっていきます。
身体を売ってでも生きた方がいいのか、身体を売る位なら死んだ方がいいのかというくだりがあるのですが、生きる意味を見出せなかったのだと思います。
解説では激しい愛と絶望とありますが、私はそうは思いません。
ルイは愛にはたどり着いていなくて、痛みと快楽でしか生を感じる事ができなかったんだと思います。
アマが殺害されても、本名も、年齢もなに一つアマのことを知らなかったのですから・・・。    知っているだけが愛じゃないけど、毎日自分のところに戻ってくることだけに、依存していたんだと思います。
ある日アマと歩いていて「おねえちゃん そいつ彼氏?」と絡まれます。
アマは激怒して、殴りかかります。
たがの外れたアマは破壊的な暴力を畳みかけます。
そのあたりから、とんでもない世界に足を踏み入れている恐怖は、ルイの心に巣食っていたと思います。
アマが殺されて、涙に明け暮れていたルイはその犯人が、刺青師のシバだと気づきます。
このサディストのシバはバイセクシュアルで、ルイだけじゃなくて、アマとも、関係していました。
アマの死で深く傷ついたルイですが、彼氏の命を奪ったと思われるシバといっしょにい続けます。

「シバさんはもう私を犯せないかもしれないけど、きっと私の事を大事にしてくれる。  大丈夫アマを殺したのがシバさんであっても、アマを犯したのがシバさんであっても大丈夫」

何が大丈夫なのか、おそらく誰にもわからないと解説にありました。
そこも私は違う考えを持ちました。
事情がわかって、多少なりとも負い目のあるシバさんなら大丈夫。
私を見捨てない。という意味だと思います。
ルイはすでにアルコール依存症で、アルコールしか受け付けないんです。
42㎏あった体重も34㎏に減少しています。
ゆっくりと死に向かっているのです。
誰かに見届けてもらいたいんです。  それはアマを殺したかも知れないシバさんしかいないんです。

いっきに読んでしまいましたが、すごーくデイープでした。
よかったら読んで、問題のところ、考察してみて下さい。
私は、若い書き手の臆さない、研ぎ澄まされた感性が好きです。
人生のほんのちょっとの間、十代にしか感じられないものが、あるんですね。
文学作品として、とてもときめかせてもらいました。

               ナカムラ・エム

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