【短編小説】愛する人がいなくなった日

そう。それは去年の秋のことだった。
僕の愛する人が自殺した。
なぜだか僕にはわからなかった。

愛する人はいつも笑顔だった。
いつも楽しそうで、幸せそうだった。
そしてとてもいい人だった。
僕がサプライズでプレゼントしたものをとても喜んでくれた。
僕が泣きたいとき、そばにいてくれた。
僕が甘えたいとき、ぎゅっと抱きしめて頭をなでてくれた。
僕が夢を叶えたとき、一緒に喜んでくれた。
僕の誕生日にはとても派手に祝ってくれた。
僕はそんなあの人が大好きだった。
僕はあの人に幸せになってほしかった。

数日後、偶然愛する人の遺書が見つかった。
遺書を読んだ僕は言葉を失った。
遺書にはこう書かれていた。
“私はいつも他人に盗られてばかり。
私はいつも脇役で、主役になれない。
いつも目立たず、木陰にばかりいる。
私は「縁の下の力持ち」という言葉が嫌いだ。
他人はいつも私の邪魔をする。
こんな平凡なつまらない人生を送るくらいなら死んだ方がマシだ。
親も何もかも許せない。
アイツが羨ましい。
アイツは夢を叶え、人気者になった。
私を押しのけて。
親もアイツも世の中のクソみたいな大人共も全員不幸になってしまえばいい。
だから、朝の通勤ラッシュの時間に飛び込もう。
そうすれば親は多額の借金を背負うことになる。
そこに居合わせた人間は仕事に遅刻し、もしかしたらクビになるかもしれない。
そしてこの遺書をアイツに見つかりやすい場所に置こう。
そうすればアイツを苦しめることができる。
みんな不幸になってしまえばいい。“

まさかあの人がこんなことを思っているなんて思わなかった。
あの笑顔の下でこんなことを考えているなんて思わなかった。
あの人とどう付き合っていけばよかったのか、わからない。
今更後悔しても、もう遅い。
この遺書を見てから、僕は誰も信用できなくなった。
他人が怖くて仕方ない。
死にたいけど、僕はあの人みたいに死ぬことはできない。
あの人が望むとおりになったのだろう。
僕はあの人が望むとおり不幸になった。

もう誰も信じられない。

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