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公演評を書くということ
このところ公演評を書く機会が増えたので、いつも何を意識して公演評を書いているのかについて、一度振り返ってまとめてみようと思い立った。
もちろんこれは現時点での考えだ。これからも変わり続けるに違いない、という前提でお読みいただければと思う。
「公演評を書く」というが、じつはこの「評」という言葉がどうも苦手だ。「評論する」「評価する」というと、どうも上から目線な気がして居心地が良くないのだ。
むしろ絵を描いている感じに近い。子どもの頃「読書感想画」というのが異常に得意で、本を読んで脳内に浮かんだ情景をそのまま絵にすれば、それだけでコンクールで最優秀賞が取れた。今も、それと同じことを文章という手段でやっている感じなのだ。
そもそも、良い舞台を観たときはその感動を「聞いて聞いて聞いて〜〜!」とできるだけ多くの人に伝えたい質である。もし公演評を書く仕事がなかったら、さぞやうるさくて迷惑な人になっていたと思う。舞台は一期一会で、一瞬にして消え去ってしまうもの。だからこそ、その素晴らしさを、受けた感動とともに、記憶だけではなくて記憶に留めておきたい。そんな思いが一番強い。
だから、まだ観てない人への興味を喚起するとともに、すでに観た人が私の文を読んで下さることで、観劇時の感動を反芻できたり、ぼんやりと感じていたことが言語化されてスッキリしたり、あるいは「こんな見方もあるのか、なるほど」と思ってもらえたりしたらいいなと思っている。
ちなみにネタバレに関しては、これから観劇する人の楽しみを損なわぬようにできるだけ気をつけるようにはしているのだが、基本的にこういうスタンスなのでネタバレになりがちだ。
いっぽうで公演評というものは、だいぶ後になってある作品のことを知りたい時に参照されるものでもある。その場合は逆に、作品の内容にある程度踏み込んで書いてあって欲しいのだ。そういう役割もあると思うから、やはりこのネタバレしがちなスタンスは譲れない。私は公演評を書くことで一義的には同時代の人に作品の魅力を伝えたいけれど、野望としてはそれに加えて、未来の人にも「令和の時代にこんな舞台があった」ということを伝えたいなと思う。
ネガティブなこと、批判的なことをどう書くか? 公演「評」であることがすんなり受け入れられていれば悩む必要もないのだろうが、私はそうでもないので、これに関しては今も悩み中だ。
ネットでの情報収集が主流になった今は、辛口評が圧倒的に書きにくい時代であることは確かだ。どこでどう言葉尻をとらえて叩かれるかわからない、そんな怖さが常につきまとう。しかし、それゆえに読み応えのある公演評が減っているのも事実だ。
自分に関していうならば、幸いなことに取り上げる作品を選べることが多いので、そもそも箸にも棒にもかからないと思った作品は公演評自体を書かずにすむことがほとんどだ(どういう基準で公演評を書く作品を決めるか、については機会を改めて整理してみるつもりだ)。
出演者に関しても、同じ作品の中でも印象に残る人とそうでもない人はある。しかも、これは役の重みとは全く連動しないものだ。そこはできるだけ自分に正直でありたいなと思う。やはり強烈な印象を受けた人についての方が饒舌になりがちなのは致し方ないだろう。
作品に関して、基本的には楽しめたのだけど実は納得できない部分もある、といった場合が厄介だ。だが、こういう時も今後はできるだけそれを言葉にしていきたいと最近は思うようになった。なかなかに難しいのだけど、これは今一番の課題の一つだ。
最初に、公演「評」という言い方がどうもしっくりこないと書いたが、これにはそもそもの時代背景として、作品の評価が偉い先生によっては決まらなくなったということもあるのだろう。かつてに比べると「評論家」の権威は落ちている。「○○さんが良いと言っているから、良いのだ」と盲目的に信じる時代ではなくなってきている。
それよりも今はネットである。SNSである。初日が明けた瞬間から、ネットで情報収集して作品の評価を探る時代なのだ。
それでは皆がネット上の情報に信頼を置いているかというと、これまたそうでもない気がする。140字という制約のあるTwitterでの呟きは断片的で瞬間的なものだ。そして、ひとたびある作品に対する評価の「流れ」ができてしまうと、それに逆流するような発言は途端にハードルが上がるから、ネット上の「評価」は必ずしも公正ではない。
じつは誰もが、読み応えがあり信頼できる劇評を求めながらモヤモヤしている、そんな時代でもある気がする。そこに風穴を開けるとは言わぬまでも、せめて真摯に向き合ってはいきたいとは思っている。
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