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劇団チョコレートケーキ『帰還不能点』

※物語の内容に触れています。ネタバレお好きじゃない方はご注意ください。

楽しみにしていた劇団チョコレートケーキの新作『帰還不能点』、観てきました。
ただでさえ客席数の少ないシアターイーストで、客席数半減での上演。それでもありがたいことです。

「何故あの時、この国は引き返せなかったのか?
対米戦の必敗を予測した男達の語る、大日本帝国破滅への道」
(公演チラシより)

相変わらず劇団名からは想像もつかない硬派なところを攻めてきます。
とはいえ、今回の舞台は飲み会の席。
戦前「総力戦研究所」なる組織に所属していた、かつての若手エリートたちが、久しぶりに集まって旧交を温めております。

前半は歴史読み解き的な面白さ。
日中戦争の引き際を見誤ったことによる泥沼化、アメリカの反応を甘読みして三国同盟に踏み切ったこと、ゴム不足による軍の南部仏印への強行進駐と、要所要所での判断ミスの積み重ねによって対米戦争に向けて後に引けない道を進んでいく…。
これが飲み会の余興の寸劇として、次から次へと役代わりで興じられてゆきます。時に政治家や軍部の判断ミスを嘲りながら、無責任を批判しながら。マフラーをたすき掛けにするだけで、あるいはステッキ代わりの傘と眼鏡だけで、この時代の有名政治家に早変わりしてしまう趣向にも思わず笑っちゃいます。

うーん、複雑怪奇な経緯が整理されて勉強になる! まるでよくできた歴史の授業みたいかも。
と思い始めたところからが、じつはこの作品の真骨頂でした。視点が世の中の俯瞰から個人の人生へと大きく転換してゆくのです。

結局、対米開戦は避けられなかった。そして多くの命が失われた。その敗北を予想していたにもかかわらず、我々は何もしなかった。ほんとうに何もできなかったのだろうか?
もしかして…「判断ミスの積み重ねで、後に引けない誤った方向に進んでいる」のは、今も同じなのかも??? 
そう考えると、この問いは、そのまま客席にも向けられるわけです。
先ほどまで「飲み会の余興」に一緒になって笑っていたことの気まずさ。きまりの悪さ。

こうして鋭い問いかけを残しつつ、でも後味はさわやか。
そこはやっぱり「劇団チョコレートケーキ」でした。
甘くてちょっぴりほろ苦い劇チョコワールドを堪能しました。
これが私のバレンタイン(笑)

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中本千晶
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