カバー用-ノーベル賞の受賞式

現在のノーベル財団の財政【投げ銭note】~「ノーベル賞の賞金、1400万円引き上げ 財団「財政が安定」」(AFP通信)~

1.はじめに

これまで、Webマガジン『なかみ博士の気になるニュース』では、科学の分野で、日本人のノーベル賞受賞者の大隅さんら研究助成の財団や、iPS細胞研究所の所長山中さんによる記念基金の2つの設立と、そららの活動理念などを紹介してきました

取り上げた財団と記念基金について、特に前者の「大隅基礎科学創成財団」は、ノーベル賞の賞金を一部、設立に使われたと言われています。科学者たちが自分たちで後継者を育てるために、財団や基金をつくる際、ノーベル賞の賞金が一定の役割を果たしていることが窺えます。

さて、ノーベル賞は毎年、10月の初めに発表されるということで、今年の受賞者の発表まで数日というタイムリーな時期。9月26日にAFP通信が伝えるところでは、受賞に関わるノーベル財団が賞金を増額するという発表をしたそうです。

●「ノーベル賞の賞金、1400万円引き上げ 財団「財政が安定」」(AFP通信、2017年9月26日 10:57、http://www.afpbb.com/articles/-/3144309)

そこで、今回はAFP通信のニュースを通じて、ノーベル財団の財政状況について、どのような状況にあって日本円で1400万円も増額できるようになったのか、考えてみようと思います。

2.「ノーベル賞の賞金、1400万円引き上げ 財団「財政が安定」」(AFP通信)から分かるノーベル財団の財政状態

それでは、さっそく、ニュースを読んでいきましょう。

”ノーベル賞の賞金、1400万円引き上げ 財団「財政が安定」
2017年9月26日 10:57 発信地:ストックホルム/スウェーデン 

【9月26日 AFP】2017年のノーベル賞(Nobel Prize)受賞者の発表開始を1週間後に控え、ノーベル財団(Nobel Foundation)は25日、各賞の賞金を今年から100万スウェーデンクローナ(約1400万円)増額すると発表した。

スウェーデンの首都ストックホルム(Stockholm)に本部があるノーベル財団の声明によると、9月14日の理事会で各賞の賞金を900万クローナ(約1億2500万円)に引き上げることを決めた。
(「ノーベル賞の賞金、1400万円引き上げ 財団「財政が安定」」(AFP通信)

改めて、受賞者に支払われる賞金がユーロではなく、スウェーデンクローナという貨幣単位であると聞いて、EU加盟国でありながら、ポンドを使うイギリスと同じで、スウェーデンはユーロに参加していない国ということを認識させられました。すみません、臨時講師や個別指導員の仕事をしていた際、社会科を担当していた経験があり、突っ込まざるをえずにはいられませんでした。

本題の賞金増額については、「各賞の賞金を今年から100万スウェーデンクローナ(約1400万円)増額すると発表」って、ニュース情報で単純計算をすると、ノーベル財団は去年までは約1億1100万円を賞金として授与していたわけです。つまり、今年から1割強プラスで賞金の額を増やすことになりました。

非常に景気のいい話ですが、ニュースの続きを読むと、ノーベル財団の財政状態がよくなった理由が分かり、賞金の増額について納得できます。

 2001年以降、ノーベル賞の賞金は1000万スウェーデンクローナ(約1億4000万円)だったが、2012年に20%減らし800万スウェーデンクローナ(約1億1000万円)となっていた。減額の理由について、財団は当時、資金を長期的にリスクにさらすのを避けるためと説明していた。 

 財団は25日の声明で「長期的な財政強化に引き続き取り組む必要はあるが、現時点で財政状況は安定したと判断している」と述べている。
(「ノーベル賞の賞金、1400万円引き上げ 財団「財政が安定」」(AFP通信))

どうやら、ノーベル財団は世界経済の動きに対して、しっかりとファイナンシャルの面で対応しながら、2012年には賞金を2割ほど減らして減額したり、今年のように、「現時点で財政状況は安定したと判断」すれば、1割強の増額をしたり、賞金の金額について増減をしているようです。

賞金額の増減を進める理由は、「財団は当時、資金を長期的にリスクにさらすのを避ける」ことや、また「長期的な財政強化に引き続き取り組む必要」を説明しています。つまり、ノーベル財団自体が自主的な財政運営を専門職員のもとでしっかりと行っている、もしくは、外部にしっかりしたパートナーをもって、毎年、ノーベル賞の賞金を受賞者に支払えるよう、財団の資金部門の運営を堅実に行っていると考えられます。

学術業界の片隅を見た私としては、ノーベル賞とは、年ごとに各分野で世界的な功績をもつと認められた功労者であり、特に職業研究者にとっては、文字通り、賞金を研究資金のもとに充てる方々もいるようなのです。例えば、ある年のフランスの経済学者は、受賞を知らせる電話のベルが鳴っていた時、まさに研究機関のオフィスで研究資金の申請書類をタイピングしており、携帯電話をオフにしていたため、気づきませんでした。その後、事務所のほうにかけ直された電話で、事務員から受賞の知らせを受け取ったそうです。

ノーベル賞の賞は1億1000~2000万円台という額です。受賞者にとっては、十分な経済的余裕をもって研究が続けられるか、一部の人にとっては、獲得できると非常に金銭的に助かる事情があります。だからこそ、ノーベル財団のほうも、抱えている財団職員の給与だけでなく、毎年、受賞者への賞金授与が滞りなく行われるように、当たり前ですが、健全なな財政運営を必死にしているのだと考えられます。

3.最後に

今回のAFP通信のニュースで、ノーベル財団の財政が堅実に運営されていることを私は知りました。ニュースを通じて、こういった世界的な学術研究の功労者に授与される賞の財団に関して、耳に情報を入れておくことも、科学の研究者としてアンテナの感度を上げる意味で、ポイントになると思われます。

最後に、今年のノーベル賞の授賞者発表スケジュールを紹介して、本記事を閉めることに致します。今年は、どの部門で、どんな研究が受賞するのでしょうか?楽しみです。

”ノーベル賞は10月2日の医学生理賞を皮切りに、その後2日間に物理学賞と化学賞、6日に平和賞の受賞者が発表される予定。文学賞については発表日程は設けられていない。(c)AFP 
(「ノーベル賞の賞金、1400万円引き上げ 財団「財政が安定」」(AFP通信))

*本記事は、投げ銭制を採用させて頂いております。もし、お読みいただいて得るものがあったとか、少しでも暇つぶしになったとか、ありましたら、寄付をして頂けたら、執筆者の励みとなります。

ここから先は

0字
この記事のみ ¥ 200

仲見満月の「分室」では、「研究をもっと生活の身近に」をモットーに、学術業界のニュースや研究者の習慣や文化の情報発信をしております。ご支援いただくことで、紙の同人誌を出すことができますので、よろしくお願い致します!