VRで「過去のキャンパスを歩けるように」を目指す【投げ銭note】~「箱崎キャンパスデジタル保存 九⼤・堀教授 丸ごとスキャ ン⽴体で再現」(西日本新聞経済電子版)~
1. はじめに
過去に存在した大学キャンパスについて、建物を立体的画像に保存し、将来、デジタルな世界で再現して、歩けるようにする――。どこかのテーマパークで実現されているような、そんな技術だと感じた私ですが、実際に九州大学のキャンパスのうち、新しい伊都キャンパスに移転済みで、取り壊しが決定している箱崎キャンパスを、丸ごと「スキャン」し、デジタル空間に再現する試みが行われているニュースをキャッチしました:
●「箱崎キャンパスデジタル保存 九⼤・堀教授 丸ごとスキャ ン⽴体で再現」(西日本新聞経済電子版)
ポケモンGOといったゲームをはじめとして、現実世界にバーチャルな空間を繋いで楽しむ娯楽は既に存在します。今回の試みは、九州大学の箱崎キャンパスをデジタル的に保存しておき、取り壊し後、バーチャルなデジタル空間に立体的に再現するというものだそう。本記事を書いている時点で、かなり、ワクワクしておりますが、その概要を今回、紹介させて頂きます。
2.「箱崎キャンパスデジタル保存 九⼤・堀教授 丸ごとスキャ ン⽴体で再現」(西日本新聞経済電子版)を読む
それでは、西日本新聞のニュースをさっそく、読んでいきましょう。
”箱崎キャンパスデジタル保存 九大・堀教授 丸ごとスキャン立体で再現
2018年01月01日 03時00分 更新 記者:古賀英毅
今秋、伊都キャンパス(福岡市西区)への移転が完了し、取り壊される九州大学の箱崎キャンパス(同市東区)を丸ごとレーザー・スキャナーで記録し、ウェブ上に公開する作業を同大人間環境学研究院の堀賀貴(よしき)教授(建築史)が進めている。消えゆく貴重な近代建築群をはじめ、キャンパス全体が仮想空間に生き続け、将来は仮想現実(VR)技術で懐かしいキャンパスを散歩できるようになる。
(「箱崎キャンパスデジタル保存 九⼤・堀教授 丸ごとスキャ ン⽴体で再現」(西日本新聞経済電子版)”
最初の段落を読んだ感想として、「丸ごと、レーザースキャナーで、キャンパス内の近代建築群を含む建物全体を仮想空間に取り込むって、どうやるんだろうか?」と驚きつつ、好奇心をそそられました。この計画を進める同大学人間環境学研究院の堀賀貴先生は、建築史を専攻し、「将来は仮想現実(VR)技術で懐かしいキャンパスを散歩できるように」することを視野に入れていらっしゃるようです。
ニュース記事の続きを読んで、掘先生の計画を詳しくみてみましょう。
” レーザー・スキャナーは最高で1秒間に100万回のレーザー光を対象物に照射し3次元の座標を持つ点群として計測。同時にデジタルカメラで撮ったデータを加工すると、立体的なカラーアニメーションで再現できて、3Dプリンターで模型も作れる。堀教授によると、壊す建物をレーザー・スキャナーで記録する例は珍しいという。
計測は同大本部の要請で2014年から始めた。箱崎キャンパスでは、旧工学部本館(1930年建築)など五つの建造物を保存活用する方針が決まっている。その他にも大正時代からの多様な建物が並び、「良くも悪くも個性があり、今後の大学では見ることができない」(堀教授)景観をつくってきた。入学式などがあった記念講堂(67年)、既に壊された旧法文学部(25年)などは内部も詳細に計測し、学内の道路や植え込みまで記録した。
(「箱崎キャンパスデジタル保存 九⼤・堀教授 丸ごとスキャ ン⽴体で再現」(西日本新聞経済電子版))”
どうやら、レーザー・スキャナーを使って、「最高で1秒間に100万回のレーザー光を対象物に照射し3次元の座標を持つ点群として計測」しつつ、「同時にデジタルカメラで撮ったデータを加工すると、立体的なカラーアニメーションで再現できて、3Dプリンターで模型も作れる」という技術を応用し、デジタル空間に箱崎キャンパスを再現しようとしているようです。
一読した限りでは、スキャナーでは、あくまで「次元の座標を持つ点群として計測」するというものであって、スキャナー自体をドローンで飛ばすなどして、画像データをためていく、というわけではないようです。その代わり、デジタルカメラで撮影したデータを、立体的なカラーアニメーションに加工し、そのアニメーションにスキャナーで計測したデータを組み合わせ、VRとして箱崎キャンパスを保存するというシステムで、作業をしていく模様です。
実は、箱崎キャンパスのVRでの再現作業計画は、2014年に始まっており、計測は本部の要請があってのこと。ニュース記事にあるように、九大の箱崎キャンパスには、「保存活用する方針が決まっている」旧工学部本館(1930年建築)など五つの建造物の他に、
・入学式などがあった記念講堂(’67年)
・既に壊された旧法文学部(’25年)
などの「大正時代からの多様な建物が並び、「良くも悪くも個性があり、今後の大学では見ることができない」(堀教授)景観をつくってきた」とされています。これらの建物については、「内部も詳細に計測し、学内の道路や植え込みまで記録」済みとのことでした。
現在の進捗状況は、次のように説明されています。
” 理系地区のスキャンはほぼ終了。文系地区は昭和30年代以降の建物ばかりで、現時点で記録の対象外だが、堀教授は「外側だけでも記録したい」とグラウンドも含めた箱崎キャンパス全体を記録したい意向だ。
まだ作業途中だが、合成を終えた場所から順次公開中。完成すればキャンパス全体や建物をあらゆる角度から見ることができて、一部は建物の中にも入れる。インターネットの閲覧ソフトによっては見られない場合もある。
(「箱崎キャンパスデジタル保存 九⼤・堀教授 丸ごとスキャ ン⽴体で再現」(西日本新聞経済電子版))”
理系地区はスキャン作業が終了間近のようです。一方、「文系地区は昭和30年代以降の建物ばかりで、現時点で記録の対象外」となっているとのことで、私としては、その計画はキャンパス全体の不完全な保存になるのではないかと、訝しく感じました。掘先生は「「外側だけでも記録したい」とグラウンドも含めた箱崎キャンパス全体を記録したい意向」をお持ちですが、計画にも予算に限界があるというもの。果たして、どこまで保存ができるのか、不安なところもあるようです。
なお、箱崎キャンパスのデータは「合成を終えた場所から順次公開中」ということです。私は、公開している入口をネット上に探してみました。堀先生の所属先のサイト「九州大学 人間環境学研究院 都市・建築学部門 建築史・意匠論研究室」(http://history.arch.kyushu-u.ac.jp./)が見つかり、右上メニューの「箱崎記録保存」のボタンを押したところ、エラー画面が出現(2018年1月2日の午後3時現在)。「インターネットの閲覧ソフトによっては見られない場合もある」ということですので、GoogleChromeやIE等でブラウザを切り替えてアクセスしましたが、いずれも「指定された URL "/Hakozaki/index.html" は、 このサーバー(history.arch.kyushu-u.ac.jp.) には存在しません」という表示が出て、デジタル空間の箱崎キャンパスを見ることはできませんでした。
3.最後に
現在進行形で進んでいる九州大学の箱崎キャンパスをデジタル保存し、VRで再現する計画ですが、将来的には、Googleマップのように、キャンパス内の路地を疑似的に歩いたり、建物を路地から眺めたり、そういったことが可能になると考えられます。「順次公開中」とニュース記事にあるので、私は見つけられていませんが、ネットのどこかで、箱崎キャンパスの一部をVRとして、公開しているようです。もし、読者の方でその入口を見つけられたら、教えて頂けたら、こちらで追加情報として挙げたいと思っております。
ところで九州大学のキャンパス移転問題として、私が気になっていることがもう一つ、あります。それは、メインブログで書きました、次の話題です:
九大の総合研究博物館では、移転先に新しい建物を造る予算がなく、貴重な資料や標本が、Twitter上で九大所属の先生と思わしき方方々により、講義棟の地下室や、校舎の廊下に仮置きされていることが指摘されているのを見かけました。実際、上記の拙記事で紹介したニュース記事には、
” 今後、大学内の検討委員会で対応を協議する。博物館側は、全学部の共有スペースを活用し、資料の一部を保存する案などを、選択肢の1つとしている。
博物館のある担当教授は「温度や湿度管理を必要とするデリケートな資料も多い。仮置きであったとしても、きちんと保管できる場所でなければならない。調整は難航すると思う。移転は迫っているのに、お先真っ暗だ」と打ち明けた。
(「九大総合研究博物館、資料・標本が散逸の危機 移転後の保存先決まらず 」福岡 、 産経ニュース)
とあって、仮置き状態であっても、資料や標本にとって、現在進行形でよい状態ではなかったようですし、現場でも苦戦が続いていたようです。引用元の産経のニュース記事は、2017年6月のものであり、その年の秋に伊都キャンパスへの移転が終了。年が明けて、現在、2018年1月初めですが、九大では総合研究博物館の建物問題は、何か、進展があったのでしょうか。ご存知の方がいらっしゃったら、教えて下さい。
今回は、取り壊しが決まっている箱崎キャンパスの画像によるデジタル空間への記録・保存をご紹介しました。建物はデジタル空間に保存することはできても、資料や標本の中には、その現物が現物であるがゆえに学究的価値を持ち、保存されてきた経緯があります。例えば、鉱物標本では、特定の鉱物が持つ独特の光や色、質感、計測される成分といったものは、スキャンして3Dプリンターを使ってレプリカを造ることはできても、完全に現物を再現することはできないのではないでしょうか。
箱崎キャンパスのものを丸ごと、保存するには限界があり、またデジタル空間できるもの、学究的価値ゆえにレプリカではなく替えのきかない現物資料といった種類のものが、九州大学には存在しているように思いました。現場で奮闘されている先生方、職員の方々は、いっぱい、いっぱいの状態だとお察ししておりますが、今、それぞれの現場でできることに取り組んで頂きたいと思いました。
おしまい。
*本記事は、投げ銭制を採用させて頂いております。もし、お読みいただいて得るものがあったとか、少しでも暇つぶしになったとか、ありましたら、寄付をして頂けたら、執筆者の励みとなります。
仲見満月の「分室」では、「研究をもっと生活の身近に」をモットーに、学術業界のニュースや研究者の習慣や文化の情報発信をしております。ご支援いただくことで、紙の同人誌を出すことができますので、よろしくお願い致します!