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カズオ・イシグロ作『日の名残り』を読んで

私にとっての2冊目のカズオ・イシグロさんの作品です。

前回読んだ『わたしを離さないで』が、うっすらと悲しい感じがして、とても良かったので、他の作品を読んでみたくなりました。

結果的にこの本も、うっすらと悲しい雰囲気化が漂う作品でした。

(恥ずかしい話、私は些細なことで調子に乗ってしまうタイプの人間なので、自分が調子に乗っている時に精神を落ち着かせるための作品としてこの『日の名残り』を読みたいと思いました。)

物語の主人公はイギリスの大きな館に勤める執事、ミスター・スティーブンスです。
スティーブンスは品格を持った主人の元に勤め、スティーブンスの周りの人々も品格を身につけた人間ばかりです。
しかし、主人の館に外から出入りする社会的地位が高い人間たちの世話を執事としてする中で、スティーブンスは「品格」とは何なのかということを考えます。

私も『日の名残り』を読みながら、
私には「品格」があるのか?
自分の周りの友人には「品格」はあるのか?
「品格」とは何なのか?
ということを考えていました。

品格をカズオ・イシグロさんはどう表現したのかが気になりました。
『日の名残り』を読んでいると、どうしても「品格」という言葉が浮いているようで、引っかかるのです。
インターネットで調べて分かったのは、「品格」は英語で「dignity」ということです。
(日本人である私には、イギリスの紳士文化がイメージしづらく、貴族がわからず、貴族院のシステムが身近ではなく、「品格」が分かりません。)

私はdignityって、尊厳という意味だと思っていました。
「品格」という言葉の意味もあるのですね。
西洋の文化的に品格と尊厳は同じ語源の言葉なのでしょうか。

私は少し怖くなりました。
品格のあるなしは議論することはできても、尊厳のあるなしは議論することはできません。
一般的に尊厳は全ての人間に備わっているものと私は認識しています。
でも同じdignityという言葉である、品格は明らかに評価の対象です。
尊厳と品格の関係について少し考えました。
(私は他人から品格がある人と評価されたいのです。)

主人公は品格を身につけていますが、物語後半では、何だかうっすら悲しく、一人旅をします。そこがいいです。
(この主人公に対する感情を今の現実世界の誰かと共有できない状況に私がいることが、私と主人公を重ねさせます。)

主人公スティーブンスの「品格」の定義は、
大衆の前で裸にならないこと
だそうです。

非常に現実的ですね。

現時点での私の「品格」の定義は、
孤独の中でその人が積み上げてきたもの
です。

スティーブンスの同僚、女中ミス・ケントンはどこか、スティーブンスのことを思い、スティーブンスはそれに気がつきながらも本当に最後まで、仕事仲間としての適切な距離を保ち続けます。
この関係性もまた、理性的に、真面目に働く人間にはよくある光景だと私は思います。

真面目に働くからこそ衝突し、衝突するからこそ互いを理解し合い、互いを理解するからこそ、互いの幸せを別々に望みながら、職場が離れても気に留め続ける関係性。
スティーブンスとケントンは双方向的に人間として尊敬しあっているのだろうと、理解しました。

(私の少ない、労働経験の中でもそのような人間関係はありました。
傲慢でなく、人間として品格のあるスティーブンスがいつまでも世間でいところの「幸せ」概念の外にいる感じが、私は大好きです。
私の周りにこんな人がいたらきっと時折相談に行く仲になっていたと思います。)

だからこそ、主人公の最後の感情が気になりました。
以前の『わたしを離さないで』の時もそうです。

私は主人公に感情移入しながら、最後の主人公の感情、
つまりミス・ケントンや品格について思い続けてきた主人公が
人生を振り返った時、どう思っているのか、
その結論的な部分が見たくなりました。

(おそらく、主人公が、過去のミス・ケントン、品格について考えながら旅をする、その旅の描写にその感情が散りばめられていると思います。
主人公は過去を少し後悔しながらも、意外と過去から変わっていません。
それでも、主人公が大きく自分を変えようとしないところに、イギリスぽさというか、日本ぽさを感じ、
それはアメリカぽさの反対だと感じました。

モヤモヤするなら新しい自分になってしまおうという自己効力感的な世の中のキャンペーンに嫌気がさしている自分にとって、『日の名残り』の主人公に私は心地良くなりました。)

私の好きな作家の一人に大江健三郎さんがいます。
大江健三郎さんの作品に、私はいつも心の奥底をグラグラと揺さぶられます。
カズオ・イシグロさんの作品は私の心を一枚の布切れや毛布で覆ってくれるような感触があります。

カズオ・イシグロさん2作目、大満足でした。
少し時間をおいて、次のカズオ・イシグロさん作品を読んでみたいです。


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