杉本喜代志 / バビロニア・ウインド Kiyoshi Sugimoto / babylonia wind (1972)
世界よ、これが日本だ
と大きな声で誇りたくなる程のブラックネス滴る名盤である。
昨今は日本のシティポップが海外で大人気何だとか。
でもどうなんだろう。
殊ヒップホップサイドからは、あくまでも「ネタ」としての人気に過ぎないのでは。
ヒップホップも誕生から40年以上経過し、ネタも掘り尽くされた感がある中で、これまで積極的には手を付けられていなかったJポップが使いやすいネタとして「発見」されただけで、曲そのものやミュージシャンへのリスペクトがどこまであるのかと思う。
もちろん心から愛してくれている人もいるのだろうけど、結局それはマニアックな一部の人だよねきっと。
で、「和ジャズ」とか「ジャップ・ジャズ」とか言われる日本のジャズもレア・グルーヴとして海外で人気と言われて来た。
とはいえそれもシティポップと同様、あくまで限定的な人たちだけなんだと思う。
さて、そんな「和ジャズ」の名盤とされる本盤。結構有名かと思っていたけど、ネットではレコ屋以外のレビューがなかなか見つからない。
いろいろ調べてみたけどいまいち情報が少ない。discogsにもほぼ情報なし。付属のライナーノーツとウィキぐらいしか頼るものがない。
それによれば杉本はもともとクラシック・ギターの教養があったが、ジャズ・コンボとして活動しながら、その腕を磨いていったようだ。
本作について
メンバーは以下の通り。
Guitar 杉本喜代志
Bass 池田芳夫
Drums 日野元彦
Electric Piano 市川秀男
Tenor Saxophone 植松孝夫
パーカッションはウィキによると日野皓正らしい。
1971年のベルリン・ジャズ・フェスティバルの参加メンバーと同じメンツで、ドイツ録音説も見かけたが、すみません、正確なことはわかりません。
ジャケットはなんだか吉田拓郎とかフォークのライヴ盤みたいな趣きである。
1972年に日本コロムビアよりリリース。
①バビロニア・ウインド
いきなりクロい。そしてスピリチュアル。ギター・ソロのフレーズの作り方は実にマイルズ・グループの時のジョン・マクラフリン的。ドラム含め「スピリチュアル・ジャズ」という言葉がない当時であれば、なるほどジャズ・ロックと表現されるのも納得。
②ミセス・ダリウス
一転ギターがぎゅわんぎゅわんと唸るジャズ・ロック。バタバタとしたドラムといい何だかクリーム Creamのライヴ盤でも聴いているような気分。こういうのはちょっと…
③ロゼッタ・ストーン
また①のような怪しげなエレピが鳴り響くので一安心。ここのギターの音も実にジョン・マクラフリン。パーカスもエムトゥーメとかエメルート・パスコアールを思い起こさせる。
不規則に絡むエレピ含めマイルズの「Live evil」のスタジオ収録曲みたい、と思ったが本作の方がリリースが先だ。恐るべし、当時のニッポン・ジャズ。
④コルサバードの丘
アルバム中もっともポップでわかりやすいテーマを持つ曲。ベースもシンプルなランニング・ベース。エレピのソロも聴きやすい。そして短い。
⑤ヒエログリフ
クロージングは実にスピリチュアルな小品。短いながら各プレイヤーの燃え滾るクロさがほど趨る。
まとめ
この頃のジャズはロックからの影響を受けて、フュージョンへと変化を遂げている時期であった。
ほぼ同時期に日本のミュージシャンがその流れを掴まえ、独自のサウンドを構築していく様が、本作には刻まれている。
リアルタイムでこの頃の日本のジャズを体感していた人達にとってこのアルバムはじめ当時のシーンがどんなもので、どのような評価を得ていたのかはわからないが、現代からみれば、同時代の世界の音楽シーンに比肩、伍する作品を創り出していた日本のジャズは恐ろしく偉大なのでは。
現代ではこの時代の邦楽といえば大瀧詠一や細野晴臣含むはっぴいえんど、荒井由実、あとは四人囃子なんかばっかりが持て囃されているが、ロック・ポップスより、杉本はもちろん、渡辺貞夫、森山威男、菊地雅章に本田竹曠(竹広)ら枚挙にいとまがないほどの才能を世に送り出していた日本のジャズのほうがよっぽど先鋭的で世界に誇れるのではないであろうか。
この辺のジャズ・ミュージシャン、アルバムが「邦楽名盤ランキング」みたいな企画にランクインする日を願ってやまない。(そんな日は来ない)