少年時代
小さいころ、よくみんなで缶蹴りや木登りをしてた。
三重の片田舎で、場所なら死ぬほどあった。
小学校低学年の時、僕は引っ越した。
その時、新しい学校の友達と仲良くなったきっかけも缶蹴りとかだったような気がする。
あの時、缶蹴りに誘ってくれた子のなかに、T君という子がいた。
いっつもハナミズたらして、アハハと笑ってた。
虫を捕るのがとっても上手くて、虫かごはいっつもいっぱいだった。
誰よりも素早くのぼり棒を登って、みんなセンボーのまなざしを向けてた。
舌ったらずで、
「じゅんちゃ!!」
って無駄にでかい声で俺のことを呼んでた。
ドッチボールがやたらめったら強かった。
学年が上がるにつれて、みんなほかの遊びをするようになった。
休みの日は缶蹴りでも虫取りでも木登りでもなく、友達の家やゲームセンターに行ってマンガやゲームなんかで遊ぶようになった。
学年で虫取りや木登りをしているのはT君だけになった。
それでもT君は、ひとりで山の中を走り回ってた。
たまに会うと、うれしそ~な声で虫が良く採れるポイントを教えてくれた。
「じゅんちゃ!!あそこカブトめっちゃとれるで~!!」
「そうなん??やっぱTは物知りや、虫博士やな~!!」
「アハハ!!すごいやろ!!」
中学校に上がると、T君とは学校が別になった。
春夏秋冬、春夏秋冬、春夏秋冬。
いつしかT君とは、会わなくなっていった。
高校生。
僕はほんの少しだけ遠くの普通科へ。
風のうわさでは、T君は近くの工業高校に行ったらしい。
田舎道で自転車をこぎながら、たまにT君のマボロシが見えたような気がした。
ハナミズたらしながら山の中を駆けるT君のマボロシが。
いつから僕は、彼のように無邪気に笑えなくなったのだろうか。
冬のある日、僕は塾に行くためにバス停で1時間半に1本しか来ないバスを待っていた。
その日は年に数回あるかないかの雪がちらつく日で、おもてに出てる人なんてほとんどいなかった。
すると、向こうから、季節外れの薄着の男がやってきた。
少し痩せた、でも面影のある。
T君だった。間違いなく。
正直、なんて声をかけたらいいかわかんなかった。
まともにしゃべらなくなって何年も経っていた。
声をかけようか迷っている僕に、T君は、こっちを向いて、
「じゅんちゃ!!!久しぶり!!!」
「俺、いまから虫見にいくねん!!」
「虫の越冬がオモロくてな~!!!いっしょに見に行こ!!」
あの頃から声変わりこそしていたが。
T君は、な~んにも、変わってなかった。
あの頃のように、無駄にデカい声で笑ってた。
僕は少し、ほんの少しだけ大人になってしまっていた。
いろんな人間のいろんな価値観に触れて、大人になってしまっていた。
でもT君は、そのまんまだった。
オイオイ、T君。
ずるいな、T君は。
かっこいいな、T君は。
「俺今から塾行かなアカンねん、またいこな!!」
「そうなん??大変やな!!がんばりや!!!!!!」
「おん!!任しときな!!!!!」
「ほんだら俺虫見に行ってくるわ!!またの!!!!!!!」
「またな!!!」
もしかしたらその瞬間、僕も、少しだけ、子供になれたのかもしれない。
かっこいいよ、T君は。
また、虫を見に連れてってくれな。
約束やに。
嘘で~~~~す!!!!!!!!!!!!!!
全部嘘で~~~~~~~~~~~~~~~~~~~す!!!!!!!!!!!!!!!!!
T君なんていませ~~~ん!!!!!!!!!!
そんな感動的な人生送ってませ~~~~~~~~~~~~ん!!!!!!!!
実家周辺、そんなに自然ないで~~~~~~~~~~す!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
僕は反町隆史です。ぷぅ
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