チキン南蛮
日頃はごく簡易的に自炊をしているが、なんか違う味が食べたいなぁと思い、チキン南蛮かなぁとGoogleマップにチキン南蛮と入れて周辺を検索してみる。
どこも行ったことがあったり何となく味のイメージが付くなぁと思いながら、まぁ極上の逸品じゃなくて良いので一番安そうなみんなが知ってる定食チェーンに行ってみることにした。
そこはオフィス街にあろうものならランチタイムには行列ができ、また人と連れ立って行くようなとこでもない店なので、これまで数回しか行ったことが無いが印象はとても良かった。
ランチタイムは過ぎているがいつも混んでいることを覚悟して扉を開けるとそれほど人は居ない。タッチパネルでチキン南蛮を探すと、思いの外安い(安くはないが)。
老人と介護者、工事系の職人と思われるお兄さん達、よく分からない若者、に紛れてまぁまぁ居心地の良さそうな席に通してもらった。私の他にもチキン南蛮の食券を店員さんに渡している声も聞こえてくる。人気なんだなぁと思ったかどうかは覚えていないが、期待に胸を膨らませてTwitterなどを転がしながら配膳を待つ。
お待たせいたしましたぁの声と共に運ばれてきたチキン南蛮は想像と少し違った。勝手にザクザクの衣で口の中が痛くなりそうなチキンにタルタルとチリソースがかかったものをイメージしていたのだけど、なんかおでんみたいなのにタルタルがちょっと掛かったものが目の前に現れた。こういうパターンかぁと思いつつ、サラダを食べ、お味噌汁を啜り、おでんみたいなチキン南蛮を一片口に運んでみる。
んー?肉というよりは本当に練り物のおでんみたいだ。肉味のおでん。端っこのものだからかもしれないので真ん中のをいってみる。
んー、確かにチキンではあるけれども食感は練り物。みるみる自分のテンションが落ちて行くのを感じる。行ったことがあり、旨いことは知っている個人経営的なあの店と迷った。ちょっと歩くしランチタイムのラストオーダーがどうかとか確認するのがめんどくさかった。しかしこれは失敗だ。何の感慨もない。おぼんにのった白飯も味噌汁もサラダもすべてチープに感じられ、自宅で食べる簡易的な食事と何も変わらないと思えてくる。期待すべきでない所で、勝手に期待してしまった。何でも良いけどなんか特別なものを食べたい気分の時に思い浮かぶ程、これまで経験したチキン南蛮は安かろうが高かろうが何処のエリアで食べようが、量の多い少ないはあるものの外したことはなかった。チキン南蛮にハズレがあるなんてショックだ。ハズレを引いてしまった経験はどんな場面でもあると思う。チキン南蛮は裏切らないと思っていたのに、しかもそりゃそうなのではと思われても仕方のないチェーン店、比較的安くてラッキーと思った束の間の事であった。大人になって色々な選択を時に慎重に、時に適当に選んでうまく行ったり失敗してきた経験があると自負していたのに。誰も責められない、ただただ適当に入った店で美味いチキン南蛮が食べられるだろうという過度な期待を持ってしまった自業自得な結果に落胆してしまった。
コーヒーゼリーでも買って帰ろうっと、なんて家を出る時には思っていたのに、自責の念に頭がいっぱいになり家の周りをグルグルしながら、目が合ったコインパーキングに駐車中の運転手とその後ばったり会ってしまい、さっきの、、と思われたような気がした。私だったら思う。
なんだか全然お腹が満たされないような気がして、マクドナルドの看板を見てハッシュポテト4つくらい食べたい気分だったが、一度心を落ち着けるために帰宅した。美味いもん食ったくらいでやる気なんてでないだろ、と思っていたのに、そういえば美味いもん食った後は「っし、やるかぁ」と言葉にせずとも多少の元気は出ていたような気がする、と靴を脱ぎながら思う。なーんにも、起こらないチキン南蛮だった。悔しい。
そんな事を思いながら、なんとなくイメージが湧いてエッセイの筆を取った。
本当は別のことで感慨深いことがあったのでそれを書こうかなと思っていたのに、その事については腰が重かったというかイメージが湧かなかった。
午前中の日が入れば暖かく服を脱いで日光を浴びたいくらいなのに、15時をも過ぎれば寒くて身を縮こませるしかない日々。
綺麗な振り袖で歩く人達と、ハズレのチキン南蛮に肩を落とす私。
写真はこの前見たMoBa展。