村上春樹が好きだった(過去形)
定点観測のつもりで読み返す本がある。村上春樹、1973年のピンボール、初めて買った純文学の本。「見知らぬ土地の話を聞くのが病的に好きだった」――この出だしの文を読むと今でも、北海道帯広市にかつてあった商業施設、サニーデパートのワンフロアを占めていた田村書店の、「む」の棚からこの本を抜き出し、頁をぱらっと捲ったときに覚えた不思議な緊張感が、ぞわぞわするほどの鮮やかさで蘇ってくる。
中二だった。校内暴力の全盛期。人口十四万の地方都市にも「ツッパリ」はいた。アーケード街の歩行者天