中小企業はやはり資本と経営の承継はセットにするのが望ましいと思う【M&A日記】
事業承継には2つの承継がある。
資本の承継は、株式の承継のこと。
即ち、会社のオーナーとしての地位を承継すること。
経営の承継は、代表取締役のポジションの承継のこと。
即ち、経営者としての地位を承継すること。
2018年度の中小企業白書によると、中小企業の7割超がオーナー企業。
オーナー企業とは、株主=経営者、あるいは、株主=経営者+αの会社のこと。
数にすると260万社以上。
このオーナー企業が、経営者の高齢化などを事由として事業承継しないといけなくなったとき、経営者としての地位だけなら育ってきた番頭格の人間に承継すれば良いとなるかもしれない。
しかし、株をどうしようかとなると、いろいろな問題が生じる。
時価総額=純資産と捉えたときに、それが数百万円であれば後継経営者による調達は可能かもしれないが、これが数千万円や億を超えるような金額になっていると、一個人としてそれを調達するのは全く容易ではない。
総務省統計局の情報によると、売上が1億円を超える企業の割合は約19%、数にして70万社強ぐらい。
1億円規模の売上で事業をしていれば、5%の利益でも500万円。
あっという間に純資産は1000万円を超えてくる。
こうなると、番頭格による承継はまず資金調達の面でハードルが出てくる。
もう一つは借入等契約の、経営者個人に紐づいてくる連帯保証の承継問題。
昔と比べれば、個人の連帯保証は極力入れないようにという方針にはなっているものの、資力のない会社の負債には依然として連帯保証が付いて回る。
後継経営者が、経営者として挑戦したい!という思いを思いっきり後ろから引っ張るように、同時に会社の数千万円、数億円という借入の連帯保証を引き受けないといけないというのは、かなり心理的に重い。
社員に会社を継がせたいと思ってはみても、現実問題がそれを阻む。
良い企業であればあるほど、株価が高くなってどうやって資金調達するかという問題。
良くない企業であればあるほど、連帯保証の問題が大きくなる。
そうすると、じゃあ株は同族で承継していきながら、経営だけを社員に任せていこうという発想が出てくる。
これができるに越したことはないと思う。
オーナー企業の割合は約7割なので、残りの3割の内数千社は上場しているとして、それ以外の会社は恐らくそれをやってきたのだと思われる。
資本と経営を分離させたとき、いろいろな問題が想定される。
それを乗り越えられるか。
同族に株が引き継がれた時に、これが分散するとまずややこしくなる。
これは、経営を同族で引き継いでいた場合も同様。
経営に携わっていない株主が問題を引き起こす可能性がある。
株には価値があって、なので資産として相続・贈与されるわけだが、実際には流動性が全くないし、家のように住めるわけでもない。
自分には資産があるはずなのに、使えなければないのと同じ。
とすると、例えば家を購入しようと思ったり、何かお金の使途ができたときに、この株を換金してしまいたいと思う。
その株は誰が引き受けるのか?という問題が生じる。
あるいは、株を持っているのだから配当が欲しいとなる。
株主として配当を主張するのは当たり前だが、経営者としては事業への再投資にお金を使いたいので、そこで資本対経営の構造ができてしまわないか。
あるいは、会社の業績が悪くなると、株価は落ちてしまう。
株主からするとそれは面白くないので、これも同様に資本対経営の構造ができてしまわないか。
本来経営者は株主の付託を受けて経営者の役割を担っている訳なので、上記の話はいずれも株主としては正当な主張ではあるものの、上場企業であればじゃあ経営者を交代するということで済むかもしれないが、中小企業の代わりの経営者はそう簡単に見つからない。
株主と経営者が良好な関係を築きながらやっていくことが重要であるが、そううまくいかないということが生じうる。
資本対経営、あるいは資本対資本のような構造が生じてしまうと、悲惨な結果が想像される。
なので、表題の通り、資本と経営はセットで承継されることが望ましいと考える。
ということは、①同族内でセット承継する、②上述したような資金調達や連帯保証などの問題を乗り越えて社員にセット承継する、③M&A、という選択肢になる。
※記事画像はサンセット