「のれん負け」ってなんだ【M&A日記】
例えば車を売るとする。
その車にはまだローンが残っているのでローン契約ごと、買う人に引き継いでもらうとする。
車の価格は1000万円、ローンの残高は500万円。
なので差し引き500万円で売却する。
この場合買う側は、1000万円の資産と500万円の負債を抱えることになる。
次に会社の売買を考える。
会社には1億円の資産があり、5000万円の負債もある。
なので、差し引き5000万円(=純資産)で売るかというと、そうならない。
車と会社の何が違うかというと、会社は利益を生み出すことができること。
なので、この利益を生み出す力を別途評価する必要がある。
良く利益の3倍とか5倍とかいうのはそれのこと。
例えば先の会社が年間5000万円の利益を生み出す力があるとして、その5倍とすると2.5億円。
純資産5000円に加えて、総額3億円で譲渡する、というようになる。
さて、この場合買い手はどうこれを処理するのか。
受け入れるのは1億円の資産と5000万円の負債なので、差し引き5000万円の純資産を対象会社の株式として投資有価証券に計上する。
残りの2.5億円は、それは何か現存する資産ではない。
利益を生み出す力とかブランド力とか目に見えない資産であり、これは「のれん」として計上される。
即ちのれんとは、会社を買収するときに、その会社の純資産を超えた部分のことを言う。
日本の会計基準では、のれんは償却することになっている。
概ね5~10年ぐらいで償却する会社が多い。
2.5億円ののれんを5年で償却するとすれば年間5000万円ずつ償却することになる。
さて、償却はコストなので、利益を押し下げる。
先の例だと5000万円利益を出す会社を買ったので、グループに年間5000万円の利益貢献がなされるかと思いきや、5000万円の償却が親会社に生じるので、差し引き0円となる。
グループへの利益貢献は償却が終わってから。
この差し引きがマイナスの状態になることをのれん負けという。
先の例の会社を4億円で買収した場合、即ち利益の7年分で買収した場合。
のれんは3.5億円で、5年償却なので年間7000万円。
5000万円利益が増えて、7000万円コストが増えるので、グループに対しては差し引き2000万円のマイナス利益貢献となってしまう。
これは例えばその買収した企業の株主からすれば、買収して全体の利益が落ちるとはなんたることや!となりうる。
利益が減る分だけ株価も落ちてしまうかもしれない。
また、グループに利益貢献を始めるのは7年後。
その間、利益が維持もしくは成長していけば良いが、うまくいかなくて利益が減ってしまったりすると、利益貢献は更に遠のく。
ということで、のれん負けは特に上場企業はあまり好まない。
のれん負けしない価格で買えるような会社が、優先的に検討される可能性が高い。
それでも高い価格で買おうという場合は、その会社を成長させられる自信があるということ。
それは気概のあることだし、私からすれば「すげーどうなるんだろう」とワクワクしたりもする。
のれん負け=負け、では全然ない。
ただ現時点では収支が合ってないというだけのことで、買収によってどんなシナジーが発揮されて、どう会社が成長していくのかが楽しみとなる。