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M&A後に従業員は本当に辞めるのか?「従業員流出リスク」は過大評価されていると思う話

買収後に従業員が辞めるリスクがあるとよく言われるし、それを心配される経営者も多い。
私は、この「M&A後の従業員流出リスク」は過大評価されていると考えている。

まず、従業員にはそれぞれの生活がある。
会社が買収されたからといって、「じゃあ辞めよう」と簡単に判断できるものではない。
多くの従業員にとって、仕事は生活の基盤だ。
特に、地方で働く中小企業の社員にとっては、転職の選択肢が限られていることも多い。
家族がいる、住宅ローンを抱えている、地元での人間関係がある――こうした要因を考えれば、「会社が買収されたからすぐに辞める」という行動は現実的ではない。
とはいえ様子見はするだろう。
自分にとって転職したいと思えるほどの環境変化がなければ残る方がリアル。

また、M&Aの買い手側にも従業員を大切にする動機が当然にしてある。
企業を買収する目的は、基本的にその会社を成長させ、長期的に価値を高めることだ。
もし買収後に従業員が大量に辞めてしまえば、事業の継続が困難になり、買収の意義そのものが失われる。
従業員のモチベーションを下げたり、待遇を悪化させることは、買収側にとってもデメリットでしかない。
だからこそ、多くのM&Aでは、買収後に「従業員の雇用は維持する」「給与や福利厚生を変えない」といった条件を明確にするケースが多い。

ということなので、従業員流出が起こるケースは、実はM&Aによるものではなく、元々その会社にあった問題が表面化した結果であることが多い。
もともと不満を抱えていた従業員が、M&Aをきっかけに転職を決断したということだ。
会社の状況が良く、職場環境に満足している従業員は、たとえ経営者が変わったとしても、辞める理由がない。
譲渡する経営者からすると寂しいかもしれないが、そんなもんだ。

また、経営方針の変更が従業員の不安を招くこともあるが、これも必ずしもマイナスに働くとは限らない。
例えば、買収によって今までできなかった設備投資や新規事業展開が可能になれば、むしろ従業員のモチベーションは上がる可能性がある。
実際に、M&Aを経験した企業の多くは、買収後に給与水準が上がったり、労働環境が改善されたりして、結果的に辞めるどころか働きやすくなったというケースが多い。

もちろん、すべてのM&Aが成功するわけではない。
しかし、少なくとも「M&Aをすると従業員が大量に辞める」というのは、過度に誇張されたリスクだと言える。
企業の買収は、従業員を苦しめるものではなく、むしろ会社を成長させ、より良い職場を作るための手段だ。
M&Aを前向きに捉え、適切に準備をすれば、「従業員流出」など恐れる必要はないと考える。

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