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事業計画が変わっちゃう!?株価算定方式による事業計画への影響【M&A日記】

中小企業M&Aでは、株価算定にEV/EBITDA倍率、もしくは年倍法が用いられることが多い。
算出方法が変われば算出額も変わるが、それだけではない大きな違いが実はある。

それは事業計画への影響。

サービス業で例えると、事業計画=出店計画。
出店すればするほど、売上は伸びて、順調にいけば利益も増える。
企業にとっては当たり前なことで、みんなそれを目指している。

しかしながら、これが株価を押し下げる要因になってしまう可能性がある。

具体的にはこんな感じ。

例えばA社。
現預金が1億円、借入が5000万円、EBITDAが5000万円とする。
EV/EBITDA倍率が5倍とすると、この会社の株価は5000万円×5+1億円-5千万円=3億円となる。

このA社が会社を譲渡する少し前に、3000万円かけて新店舗を出したとする。
これにはオープン経費等の販管費は含まず、あくまで店舗の内装等の固定資産に変わるものとする。
とすると、現預金の内3000万円が固定資産に変わる。
なので、現預金が7千万円、借入が5000万円。
株価算定は前期実績をベースとされたため、新店舗の利益は考慮されなかった。
1年が経過していない店舗はオープン景気でたまたま売上が上がっているだけかもしれないし、仮に3か月経過していたとして、それを4倍して1年分の利益とするのは強引で、考慮されないというのは十分にありうること。
とすると、EBITDAは5000万円のままで、5000万円×5+7000万円-5000万円=2.7億円。

出店する前と比べて株価が3000万円落ちてしまったことになる。

これが年倍法で時価純資産+EBITDA×5倍だとすると、出店にかかった3000万円は現金から固定資産に振り替えられるだけで、純資産額は変わらない。
結果株価は変わらない、となる。

なので、買収企業がEV/EBITDA倍率で算出する場合、譲渡する1年ほど前からは出店を抑えたほうが良いとなってしまう。
買収側は買収する会社が更に成長してほしいと思っているのに、売主が合理的に動けば、成長を一時止めたほうが良いとなり、本来の目的に矛盾が生じてしまうのだ。

難しいところとしては、買収企業が決まるのは動き出してからであって、自社の買収に興味を持ってくれた会社がどの算出方法を用いるかはやるまで分からない。

ファンドはEV/EBITDA倍率を用いるので、予めファンドに譲渡すると決めていればその前提で準備したほうが良いが、多くのケースでは相手が事業会社になるのか、ファンドになるのかは分からない。

とすると、極力譲渡前は出店を抑える事業計画にしましょう、というアドバイスを私からもすることになる。
そのほうが売主にとって合理的なため。
一方でそれは一時的だとしても、成長を鈍化させるという点で当社の理念からしても矛盾を感じて難しいところ。

企業成長は現実的にはなかなか右肩上がり一直線にはならず、波を打つようになることが多いので、踊り場のようなタイミングで譲渡を決断するのも手だ。

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