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買収価格は日々変動する?【M&A日記】

BSは買収価格に影響する。
儲かっていれば日々現金は増えていく。
じゃあ買収価格は、いつ時点のBSでもって評価するのか。

これには「ロックボックス・メカニズム」と「クロージング・アジャストメント」という考え方がある。
横文字が大好きなM&A業界においても使っている人いないぐらいな言葉。
なので言葉を覚える必要は全くないし、意味も言葉の長さに相反してとても単純。

ロックボックス・メカニズムは、事前に確定したBSを基準として価格を決定すること。
それに対してクロージング・アジャストメントは、買収契約時には概算価格を決めておき、クロージング(=株式の所有権が移転すること)時に実際のBSをもとに調整を行う。

買収契約時点で決めた価格がクロージング時に変わるというのはどういうことか。
実は株式譲渡契約締結≠クロージングではない。
株式譲渡契約を締結してから、クロージングまでには少し間が空く。

株式譲渡契約を締結した時点では、クロージング条件というものが残る(残らない場合は株式譲渡契約締結日=クロージング日)。
それをクロージング期間(株式譲渡契約締結からクロージングまでの間)中に満たさないといけない。

規模の大きいM&Aだと規制当局の承認が必要だったり。
例えば独禁法に抵触していないかなど。
あるいは、COC(チェンジ・オブ・コントロール)条項が譲渡対象会社の契約に含まれていることがある。
例えば株主が変わる場合には事前に承諾を得ないといけない、というもの。
訴訟問題などがあれば、それをクロージングまでに決着させること、なんていうこともあったり。

これらを満たす間、BSが変化したら価格もそれに合わせて変えるのかどうか、ということ。

実際の現場ではどちらが用いられているか。
恐らくロックボックス・メカニズムの方が圧倒的に多い。

そもそも現実的な話としてクロージング・アジャストメントは難しい。
例えば1月にクロージングするとして、1月の数値がまとまるのは2か月後。
1月にクロージングするのに、価格は2か月後まで定まらず決済されないというのは売主からすると受け入れられない。

一方で利益が出ている会社の場合、ロックボックス・メカニズムにすると、確定した時点以降に積みあがった利益は評価されないということになる。
赤字企業の場合はその逆。

なので儲かっている会社は、売主が不利に感じるかもしれないが、クロージング期間は1ヶ月程度であることが多く、そこまで大きく変動しない。
また、利益だけではなく、会社には色々な動きがあるわけで、例えば社員が辞めるとか、そういうのを買い手はまるっと飲み込まないといけないので、価格は多少の状況変更を踏まえて決定されている。

もしクロージング期間が長くなる場合にはクロージング・アジャストメントよりの考え方で調整するのが良いだろう。

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