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早いのは工程が省かれているだけかもしれない【M&A日記】

M&Aが成約するまでの期間が短いのは良いことか。

売主は、とにかく早く終わらせたいとなりやすい。
これは良く理解できるし、M&Aの過程はとかく売主にとって負担が大きく、できる限り早く完結させてあげたいという気持ちはある。

しかし、それはしかるべき工程を経た上でのことで、それを飛ばしてまでも期間を短縮するのは理想的とは言えない。

一連の工程は以下のとおり。
1.M&A会社による仲介会社の調査・提案資料の作成
2.買収候補企業の探索
3.買収候補企業による意向表明と基本合意
4.デューデリジェンス
5.最終契約・譲渡

それぞれ時間で考えると、1は1か月程度。
2は最短1日~相手がなかなか見つからないときは年単位も。
3は条件や契約書面の調整期間で、2週間前後。
4はちゃんとやれば2か月前後。
5は基本合意より遥かに重要なので、2週間前後から1か月以上かかることも。

これらを合算すると短くとも4か月程度はかかるはずだが、2か月で成約!というような事例はどういうことか。

恐らく相手が決まっている状態でスタートしているので、2はなし。
それでも4か月程度はかかるはずだが、短縮されているのは、デューデリジェンスと契約書の調整期間と思われる。

まず、デューデリジェンスはそもそも買い手が実施すること。
買い手が買収後のリスクをできる限り排除するためにやること。
ということは、売主には関係なく、売主からすれば無いに越したことはないかと言えばそうでもない。
デューデリジェンスをしなかったところで、譲渡契約において売主は表明保証をしなければならず、会社に問題があって損害が生じれば、補償請求されてしまう可能性が高い。
デューデリジェンスをすることで、問題をできる限り事前に洗い出すことができ、それを踏まえた契約書にすることもできる。
デューデリジェンスをしないことは買主・売主双方にとってリスクになるため、ちゃんとやりたいところ。

また、契約書の内容調整もちゃんとやればそれなりに時間がかかる。
基本合意契約は法的拘束力が弱く、ここにお金と時間をかけるのは私もあまり賛成しないが、譲渡契約書に関しては全く異なる。
それで決まるので、まず弁護士に確認してもらうことは必須で、短縮されているケースというのは恐らく弁護士に相談していない。

また、弁護士なら誰でも良いわけでもない。
弁護士にも得意分野があって、M&A経験のない弁護士は正直無力と言って差し支えないぐらいポイントを分かっていなかったりする。
M&A経験がある中でも、理想的なのは売主側の経験をしたことがある人。
大手にいると、大企業担当などで実務的には買収側しか経験していないことも少なくない。
そうすると、買い手側の気持ちが分かるのは重要なことだが、売主を守るために検討すべき事項が分かっていなかったりする。
しかるべき弁護士に相談して、売主・買主双方の希望をぶつけながら進めていくと、それなりに時間はかかる。

成約期間が短いというのは大事な部分を飛ばすことで、その分だけリスクが大きくなるし、結果不適切な買い手に引っかかる可能性も高くなる。

早く終わらせたいという売主側の気持ちはよく分かるが、1年程度はかかるというつもりで予め心の準備をしておくことをお勧めする。

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