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全てを白紙に戻す?譲渡契約書のMAC条項【M&A日記】
MAC(マテリアル・アドバース・チェンジ)条項とは、契約締結後に「重大な悪影響」が発生した場合、買い手が契約を解除できるという条項のこと。
内容の具体性は別として、殆どの株式譲渡・事業譲渡契約に入っている。
例えばこんな条文。
「売り手(対象会社)の事業、財務状況、業務または資産に重大な悪営業が生じた場合、買い手は本契約を解除する権利を有する。
ここでいう「重大な悪影響」とは、(i)対象会社の総売上または純利益がX%以上減少すること、(ii)重大な法的紛争の発生、または(iii)その他の経済的または市場環境の変化により、対象会社の事業継続に重大な支障が生じることを含むが、これに限定されない。」
譲渡経験のある方であれば、見たことがあるだろう。
当事者たちはそんなことは起きないと思っているので、契約書チェックの際にはあまり重視されない。
しかし万が一の事態となれば全てが白紙になる可能性のある重たい内容だ。
前回の記事でも書いたが、クロージング(=株式や事業の所有権が移転する日)と株式・事業譲渡契約の締結日は同じではない。
まず契約を締結し、売り手・買い手とがそれぞれクロージング条件を満たした上でクロージングされる。
その期間はだいたい1か月ほど。
なので、この1か月の間に何か大きなコトが起きた場合に、MAC条項が適用されるかどうか、ということになる。
・買い手は 「契約後に状況が悪化したら、買収を回避するためにMACを使いたい」
・売り手は 「市場の影響やちょっとした業績悪化で契約解除されたくない」
というのが想定される各スタンス。
実際問題としてこのMAC条項の適用は容易ではないよう。
幸いにして私はまだそれが発動される機会に巡り合っていないが、近年だとコロナ禍を事由としてMAC条項の適用が注目された。
私は当時独立前で、M&A部門の事業部長を担当していたが、忘れもしない20年3月、当時走っていた部内の案件が全て止まり、殆どが破談となった。
まだ譲渡契約は何れも締結していない段階であったため、MAC条項を適用するかという議論にはならず、買い手側から「ごめんなさい、自社の存続も危ぶまれる可能性がある中で買収できません」という連絡が続いた。
一般的に、MAC条項は「対象会社固有の重大な悪影響」を対象としているため、コロナのような「市場全体や経済全体に影響を及ぼす事象」は、MACの定義から除外されることが多いよう。
実際の事例では、買い手がMAC条項の適用を主張したものの、売り手が「コロナは不可抗力であり、MACに該当しない」と反論。
最終的には買収価格の引き下げや契約条件の再交渉で調整されたそう。
このような事例は当時少なくはなかったはず。
コロナ禍以降、想定外の事態は起きうると認識が変わったため、以降に締結される契約ではMAC条項の発動要件をより具体化されるケースも増えた。
万が一のことではあるけれども、起こりうることなので、契約書チェックの際には要注意。