LTADまとめ⑧第6章 トレーナビリティー
第6章 トレーナビリティー
トレーナビリティーとは聞きなれない言葉ですが、
「トレーニングの効果的な時期とその内容」と考えて良いと思います。
発育・発達の途上にある育成年代の選手達に大人と同じトレーニングを行なってもトレーニングの効果は高くありません。
と同時に、大人になってからではトレーニング効果の低いトレーニングでも、
子ども時代であれあば、非常に高いトレーニング効果を示すものもあります。
育成年代のコーチは、大人と同じようなトレーニングを子供達に課すのではなく、
一般的なトレーナビリティーに関する知識を理解し、
実際の指導に活かす必要があるでしょう。
この章では、LTADの10個のキーファクターのうちの一つ、
「トレーナビリティー」について、その詳細が語られます。
※ここから先はLTAD第6章「トレーナビリティー」を簡単にまとめた内容になります。
はじめに
トレーナビリティとは「発育・発達段階における、トレーニングを行うことによって現れる個人の反応性のこと」です。
例えば、ある特定の時期に反射神経を高めるような練習を行うことで、その時期以外に同じ練習を実施した場合より、効果的に反射神経を速くすることができます。
「発達の敏感期」とは、特定の能力の発達において、トレーニングが最適な効果を発揮する時期のことです。現在、新しい課題を他の時期よりも効果的、かつ効率的に学習できる敏感期が存在することが科学的にも明らかになっています。
この章では、トレーニング効果が促進される時期について話を進めます。
さらに、持久力、筋力、スピード、スキル、巧緻性についての効果的なトレーニング時期を特定するための、生物学的マーカーを紹介します。
トレーニング効果を加速させるというコンセプトについては、
様々な研究が行われていますが、その研究結果には不確かなものも多くあります。
限られた研究結果の中ですが、その有効性を前提に話を進めていきます。
成長期の子ども達について、その練習やトレーニングの内容が、その時期に最も効果的なトレーニングを実施することよりも、その時期の試合で勝つことや大会で結果を残すことが優先されるようなことがあってはいけません。
本章では、育成年代のトレーニングプログラムを立案する際に、コーチや保護者が参考となるような、トレーナビリティに関する文献について整理し、その一般的な傾向を紹介します。
トレーニングの最適な時期
1930年、スキャモンは全身、神経、生殖器の発達過程をグラフ(図1)にしました。現在このグラフは、トレーニング効果についてのロードマップのような役割を担っています。しかしながら、1980年代後半まで多くのコーチは、このグラフをロードマップとして使用することを考えていませんでした。大人のトレーニングをそのまま縮小したプログラムを子どもたちにも実施していたのです。
今日でも、多くのコーチは成長期におけるトレーナビリティについて理解していません。子ども達が、生物学的に準備が整った時(つまり、特定の体力要素を向上させるための感受性が高い時)、その生物学的なマーカーが役に立ちます。
主要な生物学的なマーカーは以下の通りです。(図2)
-思春期におとずれる、急成長期
-成長のピーク時
-初潮の始まり(女性の場合)
これらの生物学的なマーカーを知り、選手の発達段階を認識することができれば、効果的なトレーニングを最適な時期に行うことができます。
効果的なトレーニングを行う最適な時期を表すために、その対象となるパフォーマンスについて、5つの“S”を使うのが最も良い方法です。
-Stamina(持久力)
-Strength(筋力)
-Speed(スピード)
-Skill(巧緻性)
-Suppleness(柔軟性)
育成年代のコーチや保護者が5つの”S”に関連して考慮すべき重要な話題として、以下のものが挙げられます。
-5Sは常にトレーニングすることが可能であるが、最適な時期に適切な量、強度、頻度でトレーニングすれば、加速度的な向上が見込まれる。
-成長期にはトレーニングをしなくても様々な能力の向上が見られます。例えば肺活量は成長とともに増加するため、計画的なトレーニングなしでも、この増加は起こります。
-筋力は成長期以降、計画的な運動をしなくても、成長の結果として増加します。
第5章『年齢』では、コーチを支援するためのいくつかの解決策を提案しました。一つは、成長速度曲線における生物学的なマーカーを最適なトレーニングプログラムを設計するための基準点として利用することです。簡単な測定により、コーチは成長速度をモニターし、トレーニングの優先順位を決めることができます。
スタミナ(持久力)、筋力、スピード、スキル、しなやかさ(柔軟性)の最適なトレーニング可能(適応促進)ウィンドウを図3に示します。女性と男性で異なることが一目瞭然です。
図3の矢印は、成長パターンの違いによる成長年齢の範囲を示しています。矢印のない部分は、歴年齢を表しています。図3において、これらふたつの年齢が使用されているのは、スピードや柔軟性に関する研究はすべて暦年齢に基づいている一方で、スタミナ、筋力、スキルに関する研究は成長年齢に基づいているためです。
5”S”についてそれぞれの窓(トレーニングの最適期)については、身体の感受性の高い時期には完全に開き、そうでない時期には部分的に開いていることに注意してください。繰り返しになりますが、このトレーニング最適期期以外でも、トレーニングを行うことは可能ですが、その効果や効率は期待できません。
持久力のトレーニング最適期
成長期が始まるということは、有酸素性持久力トレーニング、すなわち持久力を加速的に適応させる準備が整うということです。
成長期に入ってから、男子は身長が最も伸びた直後に最大酸素摂取量が急上昇することが多く、男性ホルモンの分泌に呼応しています。女子の場合、最大酸素摂取量は14歳頃にピークを迎え、16歳まで緩やかな上昇が続きます。この上昇は、成長によるものであるため、トレーニングを行わなくても生じます
コーチは、適切なレーニングを実施することで、この時期の最大酸素摂取量の増加を達成することができます。この考えを裏付けるように、小林ら(1978)は、「PHVの約1年前から、それ以降は、トレーニングによって、年齢と成長に起因する通常の増加以上に有酸素性パワーが効果的に増加した」と述べています。多くの一流コーチは、この重要な発達の時期に有酸素能力の開発を強調したトレーニングプログラムを試み、成功を収めています。
育成年代の選手達は、成長スパートが始まった後、成長の度合い(早熟型、平均成型、晩熟型)に基づいてグループ化する必要があります。そうしなければ、トレーニング不足やオーバートレーニングが発生し、各年齢において一定数の子どもしか適切なトレーニングが受けられなくなる可能性があります。
体重をかけない有酸素運動は、怪我やオーバーユースを減らすことができます。成長期には、体重を支える活動を含む技術的な戦術トレーニングと筋力トレーニングを適切に行うことで、「成長痛」を軽減したり、よりよくコントロールしたりすることができます。成長期の有酸素トレーニングは、オーバーユースよる怪我を防ぐために、体重をかけない活動と体重をかける活動(例えば、水泳、ボート漕ぎ、トレッドミル走行、階段昇降機の使用、ランニング、サイクリングなど)で構成することが望ましいと言われています。
筋力のトレーニング最適期
成長期の前に筋力を向上させることは可能です。
子供は、絶対的な強さよりも、相対的な強さ(体重との関係)に関して大人と同様のトレーニングが可能であると思われます。筋力トレーニングは、自重(腕立て伏せ、あご上げ)、メディシンボールなどを用いて、早い年齢で導入することができ、基本的な動作スキルの向上と一般的な筋力やパワーの発達を図ることができるようになります。
成長期以前の筋力向上は、運動学習、運動協調性の向上、形態学的・神経学的適応を通じて起きます。また、運動で筋の活性化を高めることでも筋力は向上します。
成長期前の短期的な筋力トレーニングは、持久的な活動を妨げることはないようです。しかし、成人とは異なり、思春期前のアスリートは、筋力トレーニングは週に2~3回行い、時間は30分を超えないようにする必要があります。筋力トレーニングの最適期は、女性はPHVの終了時または直後と初潮の時期、男性はPHVの12~18ヶ月後です。
女性の場合、筋力トレーニングの最適時期は、PHV直後と初潮の始まりの2つです(図4.a)。男性では、PHV後12~18ヶ月の筋力速度のピーク時に筋力トレーニングが重要視されます(図4.b)。
スピードのトレーニング最適期
スピードの発達は、直線的なスピード、横方向のスピード、多方向のスピード、方向転換、敏捷性、分節的なスピードに分類されます。
スピードのトレーニング最適期は以下の通りです。
- 女性:6~8歳、11~13歳。
- 男性 7~9歳、13~16歳
スピードトレーニングの最初の最適期では、スピードのエネルギーシステム(無酸素運動によるパワーと能力)を鍛えることはせず、中枢神経系(CNC)を鍛えることを優先します。
アジリティ、クイックネス、方向転換、分節スピードはCNSによって制御されています。トレーニング量は非常に少なく、強度は非常に高く、CNSと非乳酸系無酸素運動に挑戦する必要があります。運動の持続時間は5秒以内とし、セット間で完全に回復させましょう。
スピードトレーニングの2回目の最適期では、非乳酸系無酸素運動によるインターバルトレーニングを開始します。運動時間は5秒から20秒が推奨され、セット間は完全な回復が必要です。トレーニングの全体量は少なめにします。
興味深いことに、Cooper (1995) は、子どもたちは長時間の活動よりも短時間の激しい活動に従事することが多いと報告しています。この高強度の活動の平均時間はわずか6秒であり、その激しい活動と活動の平均間隔は約20秒でした。
以下は、スピードのトレーニング最適期に関するいくつかの重要な問題です。
–スピードは定期的かつ頻繁にトレーニングする必要がある(例えば、ウォームアップ後のすべてのトレーニングセッションで)。
- ウォームアップ終了時または終了直後は、中枢神経系や代謝系の疲労がない状態で、スピードトレーニングに最適な時間帯である。
- トレーニングの量は少なくし、エクササイズとセットの間に完全な回復を行う必要がある。
–加速は短い距離で行い、正しい姿勢で、肘、膝の駆動、頭の位置を正しくする必要がある。
-スタートのスピードと中間疾走におけるスピードは、スピードトレーニングの最適期以外の時期であっても、定期的にトレーニングする必要がある。
- ウォームアップの終了時など、トレーニングセッションの一部をスピードアップのために確保することに加え、年間トレーニングの中にスピード系のトレーニングを計画的に配置し、子ども達のスピードアップを図るべきである。
-コーチは、スピードのトレーニング最適期が2回あることに特に注意を払う必要があります。
巧緻性のトレーニング最適期
基本的な動作スキルやスポーツスキルは5歳から12歳の間に最も訓練しやすいと言われています(Borms, 1986)。図5に、子どもが身につけるべき主なスポーツの基本スキルのいくつかを示します。コーディネーション能力と運動能力は、神経系と同様に、幼少期に身体的に活発な子どもにおいて非常によく発達すると言われています(Mero, 1998)。
Tittel(1991)は、生物学的に11歳程度の子どもは、生物学的に13~14歳の子どもよりも優れたコーディネーションテストの結果を示したと述べています。このことは、コーディネーション能力の成熟が性的成熟の前に起こることを示しており、早期特化型スポーツが5、6歳でスポーツ特有のトレーニングを始める主な理由となっています。
これらのスポーツを行う子どもたちは、成長スパートが始まる前に、必要なスポーツ特有のスキルや一般的なスキルを身につける必要があります。しかし、後期特化型のスポーツでは、幼少期における専門スキルの激しいトレーニングは、発達に有害であることが分かっています。早期に特定のスポーツに特化したトレーニングを行うことは、不均衡な体力を助長し、特定のスポーツの技術や戦術のみをトレーニングすることとなり、子ども達が後に必要となる幅広いスキルの基礎を開発できない結果になります。
女子で8歳から11歳、男子で9歳から11歳まで、運動技能や協調性の発達に加速度的に適応することをPMCV(Peak Motor Coordination Velocity)といいます。ほとんどの専門家がこのレーニング最適期を確認しています。
コーチも保護者も、基本的な動きとスポーツ特有の基本的なスキルは、女子では11歳、男子では12歳までに習得する必要があることを理解する必要がありますが、後期特化型スポーツを早期に専門化することは、否定的な結果をもたらす傾向があるり、燃え尽き症候群につながるという証拠がかなりあります。
コーチは、スキルは常に訓練可能であるが、スキルの訓練可能性は11~12歳、より正確には成長スパートが始まった後、徐々に低下することを認識すべきです。これは、12歳以降のスキルアップが不可能ということではなく、スキル習得の基礎は12歳までに築かれるということです。この基礎がきちんとできていないと、その後のスキルアップが難しくなります。その結果、発達が妨げられる可能性があるのです。
運動能力のABC(敏捷性、バランス、協調性、スピード)や陸上競技のRJT(走る、跳ぶ、投げる)といった基本的な運動能力を、巧緻性のトレーニング最適期の初期段階(通常6歳~)に、楽しいゲーム活動を通じて子どもに優しい環境で導入することが推奨されます。これらの基本的な動きができるようになると、様々なスポーツの基本的なスキルに移行することができます。
柔軟性のトレーニング最適期
柔軟性は、トレーニングとパフォーマンスの重要な要素です。
個人およびスポーツに応じた最適な柔軟性は、早いトレーニング年齢で確立する必要があります。しかし、どのように柔軟性を発達させるのがベストなのか、また、柔軟性のトレーニングが子供にどのような影響を与えるのかについての情報は限られています。
原則として、関節の可動性を高めるためのトレーニングは、PHVの発現前に始めるべきです。Mero (1998) によると、9歳から12歳 (成長期以前) は、柔軟性のトレーニング最適期であり、柔軟性を向上できる時期であるとされています。
成長期が始まる前には、動的モビリティと静的ストレッチを重視する必要があります。アスリートは、トレーニングサイクルの休息日にストレッチを行うべきではありません。柔軟性が不足している場合は、柔軟性トレーニングを週5~6回実施する必要があります。現在の柔軟性レベルを維持するために、アスリートは毎週2~3セッションの柔軟性トレーニングを行うか、1日おきにトレーニングを行う必要があります。
静的ストレッチは、ケガを防ぐことができないので、ウォームアップの一部にしてはいけません。原則として、静的ストレッチや固有受容性神経筋促通法(PNF)は、トレーニングまたは競技の2時間前または2時間後に実施する必要があります。
成長期のトレーニングと競技会
Viru (1995)は、コーチが成熟過程にあるアスリートのプログラムを設計する際に考慮すべき重要な要因を指摘しています。これは、コーチにとって重要なメッセージです。
競技会やパフォーマンスへの要求が、成長期におけるトレーニングプロセスの最適化を妨げてはなりません。もし干渉すれば、アスリートは、身体能力とスキルの発達において、トレーニング最適期のチャンスを逃してしまいます。
生物学的マーカーで個々のアスリートの成長パターンをモニタリングすることで、コーチは、トレーニング最適期を知ることができます。5"S"に敏感な時期を利用することで得られるトレーニング効果は、最終的に若いアスリートがその潜在能力を最大限に発揮することにつながります。したがって、発育段階にあるアスリートのトレーニング、競技会、回復の各プログラムを、発育年齢に着目して、それぞれの必要性に合わせて設定することは、理にかなっています。
結論
本章で概説したトレーニング最適期は、LTADの段階における様々な能力の優先順位を示しています。若いアスリートを担当するコーチは、以下のことを行う必要があります。
-各アスリートの成長期の始まりから成人になるまでを測定し、追跡する。
-生物学的マーカーを記録し、意思決定に役立てる。生物学的マーカーのデータをもとに、アスリートの成長のテンポに合わせてトレーニングプログラムをモニタリングし、調整する。
-各アスリートに対して、トレーニング最適期を利用した適切なプログラムを設計する。各プログラムは、個人およびスポーツ特有のニーズに基づいている必要がある。
- 持久力、筋力、スピード、巧緻性、柔軟性は常にトレーニングすることができるが、その向上速度はトレーニング最適期と成熟レベルの影響を受けることを心に留めておくこと。
-スピードと柔軟性のトレーニング最適期は暦年齢に基づいている。
-持久力、筋力、巧緻性のトレーニング最適期は成長年齢に基づいている。
-成長をモニターするには、以下の生物学的マーカーを使用します。
・成長スパート開始
・成長のピーク(成長のピークが減速した後)
・初潮の開始
この章では、若いアスリートにおける複雑な成長過程を明らかにし、成長がトレーニング効果にどのように関係しているかを説明し、コーチや保護者の方に、様々な年齢におけるトレーニングやパフォーマンスの5つのSの発達に関する情報を提供しました。
まとめ
今回の章はトレーナビリティ(トレーニングの最適な時期とその内容)の詳細について説明したものでした。
この観点から、中学校の部活にLTADを応用するための視点としては
①成長速度曲線の生物学的マーカーを利用し、効果的なトレーニング計画を行う。
ことが考えられると思います。
①成長速度曲線の生物学的マーカーを利用し、効果的なトレーニング計画を行う。
5”S”について、大雑把に中学生の時期がどのような時期かまとめると、
女子については
持久力については最適期真っ只中であり、
スピードについては2度目の最適期に入る時期、
筋力についても最適期真っ只中、
巧緻性については最適期が終わろうとしている時期、
柔軟性については最適期がすでに終わっている時期と言えます。
また、男子については
持久力については最適期真っ只中であり、
スピードについては2度目の最適期に入る時期、
筋力については早熟型の子どもは最適期に入り出す時期、
巧緻性については最適期が終わろうとしている時期、
柔軟性については最適期がすでに終わっている時期と言えます。
このようなことを踏まえ、
どのようなトレーニング計画を行なっていくのかが今後の課題です。
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