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LTADまとめ⑦第5章 年齢

第5章 年齢

我々、育成年代のスポーツの大会は年齢で区切られています。
そのため、中学校の部活であれば12歳から15歳というように、
年齢で区切られた集団を指導対象にしていることがほとんどです。

しかし、育成年代において単純に子どもの年齢を基準に指導を行うことはベストな方法とは言えません。なぜなら、子どもたちの発育・発達には個人差があり、適切なトレーニング時期や方法がそれぞれ異なるからです。

このような問題に、育成年代のコーチはどのように対処していけば良いのでしょうか?

この章では、LTADの10個のキーファクターのうちの一つ、
「年齢」について、その詳細が語られます。

※ここから先はLTAD第5章「年齢」を訳したものを簡単にまとめた内容です。

はじめに

スポーツで用いられる年齢区分には様々なものがあります。
それは、暦年齢、骨格年齢、相対年齢、成長年齢、一般的トレーニング年齢、特化型トレーニング年齢などです。
この章では、特に相対年齢と成長年齢に焦点をあて話を進めます。

この二つの年齢区分はトレーニング計画の設計に大きな影響を与えるので、
保護者やコーチは子どものこれらの年齢区分を把握しておく必要があります。

特に、早熟な子どもと晩熟な子どもを識別するために、
成長をモニタリングする方法について説明をします。
この方法を利用することで、子どもたちの成長年齢を判断し、
適切なトレーニング計画を立てることができるのです。

様々な年齢について

・暦年齢:生まれてから何年、何日経ったかという年齢。
・骨格年齢:骨格の成熟度による年齢。骨の大きさや密度が成熟に向けてどの程度進行しているかによって判断される。
・相対年齢:学齢基準日によって生じる、同じ学年内の中での生年月日のばらつきのこと。例えば、小学1年生のクラスでは4月生まれの児童は翌年3月生まれの児童に対して、約1年の相対年齢の優位性を持っていることになります。
・成長年齢:身体的、精神的、認知的な成熟の度合いを指す年齢。身体的な成長年齢は身長などの測定をモニタリングすることで判断することができる。
一般的トレーニング年齢:様々なスポーツのトレーニングや参加に費やした年数
特化型トレーニング年齢:特定のスポーツに特化してきた年数

相対年齢

スポーツの世界は年齢制限で大会が作られています。
そのため、生まれた月が重要となります。

個人スポーツと団体スポーツで選手として選考される子どもたちの40%は4月–6月生まれで、1月-3月生まれの子供たちは10%しかいません。
このような現象は「相対年齢効果」と呼ばれています。

図1:各競技(陸上・テニス・競泳・サッカー)ごとにおける選手の誕生月と相対年齢効果
出典:『LONG-TERM ATHLETE DEVELOPMENT』 p.66 FIGURE5.1を修正
図2:ウェスタン・ホッケー・リーグとオンタリオ・ホッケー・リーグ 選手の誕生月分布
出典:『LONG-TERM ATHLETE DEVELOPMENT』 p.66 FIGURE5.2を修正

相対年齢はコーチングをする上で重要な役割をになっています。
様々な調査(図1.図2)で明らかになっていることですが、
学年別のグループで競技を行うと、最年長や最年少であるということで、
大きなメリットやデメリットが生じます。

その学年別グループの中で、最も最年長の子どもたちは同学年の年下の子どもよりも体が大きく、力も強く、技術も優れている傾向があります。そのため、コーチは最年長の子どもたちの方が優れたプレーヤーであると考えるようになるのです。
その結果、より多くの言葉かけやプレーイングタイムを与えられた最年長の子どもたちは、より優れたプレーヤーになることが多いのです。

コーチや保護者はスポーツ団体と協力して、相対的年齢効果を低減する方法を見つける必要があります。以下はその提案です。

1.アスリートの活動年度を決めるのに、特別な基準日ではなく、実際の生年月日を使用する。この原則を適用することは、個人スポーツでは比較的簡単ですが、チームスポーツではかなり複雑になる。

2.年齢に関係なく、アスリートの能力に基づいた能力別のグループ分けをする。これは、時間の範囲に基づいてグループを決定することができる時間制のスポーツで簡単に行うことができます。コンタクトスポーツや複雑な判断を必要とするスポーツでは、グループ分けはより難しくなります。

3.アスリートを能力に基づいてグループ分けできない場合は、競技の公平性を保つために、大会当日の年齢を使用する。
勝つことだけでなく負けることにも価値があることを忘れてはいけません。大会開催日の年齢を使うことで、その年齢グループで最年少になる機会も最年長になる機会も生まれます。

成長年齢

相対年齢だけでなく、早熟傾向と晩熟傾向のアスリートの問題は特別な注意を払う必要があります。

成長年齢を見てみると、同じ暦年齢の子どもであっても4〜5年の成熟度の違いがあることがわかります。(図3)
成熟過程とその影響を理解することはアスリートや指導者、保護者、競技団体関係者にとって重要な問題です。

図3:女子と男子の成熟度
出典:『LONG-TERM ATHLETE DEVELOPMENT』 p.68 FIGURE5.3を修正

以下に、晩熟型と早熟型の問題について懸念される点を挙げます。

・成長年齢が高いことを強みにしてきた早熟傾向の選手が、平均的な選手や晩熟傾向の選手に追いつかれ、その強みを失う。発育の早さに頼っていたため、必要な技術や運動能力が身についていない場合がある。このような場合、身体的な優位性の喪失と技術や運動能力の不足が相まって、フラストレーションが溜まり、多くの早熟傾向の選手が14-15歳の頃にそのスポーツから離れていくことになります。

・晩熟傾向の選手は、早熟傾向の選手のような発達の利点がないため、身体的な利点に乏しく、スポーツに不向きであると見なされます。その結果、晩熟傾向にある選手は集団の中で下の階層に位置付けられ、質の低いプログラムやコーチングを受けることが多くなります。このような機会の減少は、晩熟傾向の選手のスキルを伸ばす機会を奪ってしまいます。もし、晩熟傾向の選手が、このような抑止に耐えてスポーツに留まることができれば、最終的に良いアスリートになる可能性があります。

Balyiらは、発育・発達のパターンから、暦年齢と成長年齢の違いを明らかにしました。発育と発達という言葉は、同義的に使われることがありますが、それぞれの本来の意味は異なります。

発育とは、身長、体重、体脂肪率など、体格が段階的に定量的かつ測定可能な変化を示すことです。
発達とは、骨格が軟骨から骨に変化するように、成熟に向けた身体の構造的・機能的な質的変化を意味します。

LTADでは、選手を早熟型、平均型、晩熟型に分類し、トレーニング効果を最適化するために、発達段階に応じたトレーニングおよび競技プログラムの設計を提案しています。成長スパートの始まりとピークは、LTADにおいてトレーニングや競技の設計を行う上で非常に重要です。

成長の測定とモニタリング

アスリートの成熟度をモニタリングし、特定するために、成長の測定が必要です。トレーニング、競技、回復プログラムは、暦年齢ではなく、成長年齢に基づいて行われます。早熟型と晩熟型を識別し、それぞれの発達状況の長所と短所について教育することが重要です。
また、成長をモニターすることで、トレーニング効果を最適化できる時期を特定することができます。

成長速度曲線(図4)は、コーチがアスリートの成長パターンをモニターし、その成熟度合いを確認するのに役立つものです。

図4:女子と男子の成長速度曲線
出典:『LONG-TERM ATHLETE DEVELOPMENT』 p.69 FIGURE5.4を修正

LTADは、暦年齢ではなく、成長年齢を基準としています。
人は皆、同じような段階を経て成熟していきますが、成熟のタイミング、速度、大きさには個人差があります。LTADに基づくプログラムは、早熟型、平均型、晩熟型を明確にし、コーチが選手のレディネスに基づいて指導、トレーニング、競技プログラムを設計するのに役立ちます。

思春期には、個人の成長パターンに基づいたトレーニングプログラムが必要となります。このため、身長を定期的に測定し、成長スパートが始まる時期や、各選手の身長のピーク(PHV)やそのカーブを判断する必要があります。
身長のピーク(PHV)とは、成長スパート中の身長の最大伸び率です。図4は、女子と男子の典型的な成長率パターンを示しています。線の最高点が最大成長率、つまりPHVです。PHVの直前で線が急伸するのが成長スパートです。

平均して、PHVは12歳前後の女児に発生しますが、通常の発育の順序では、2年以上前または後に発生することもあります。思春期の最初の身体的徴候は、通常、成長スパートが始まった少し後に起こる乳房の芽生えです。その後間もなく、陰毛が生え始めます。初潮あるいは月経の開始は、PHVが達成された後に起こります (Ross & Marfell-Jones, 1991)。

男の子のPHVは女の子よりも急激で、平均して約2年遅れて起こります。女子と同様、平均より2年以上早く、あるいは遅くなることがあります。精巣、陰毛、陰茎の成長は、発育過程と関係があり、筋力速度のピーク(PSV)は、PHVの1年かその後にやってきます。早熟な少年は、晩熟な同級生に対して、生理学的な優位性を4年分も持っているかもしれません。しかし最終的には、成長期を迎えた後、晩熟型の子供が追いつくことになります(Ross & Marfell-Jones, 1991)。

アスリートが早熟か晩熟かは問題ではありません。
問題は、そのアスリートの短期的および長期的な扱い方です。早熟型、平均型、晩熟型のアスリートのニーズを満たすために、適切なトレーニングおよび競技のスケジュールを設定する必要があるのです。

成長年齢における6つのフェーズ

子どもの成長をモニタリングすると、下の図5のように6つのフェーズに分類することができます。

図5:成長における6つのフェーズ
出典:『LONG-TERM ATHLETE DEVELOPMENT』 p.70 FIGURE5.5を修正

第1フェーズ:およそ0〜6歳くらい(アクティブスタートのステージ)
この時期は乳幼児期の急激な成長と、2歳以降の急激な減速が特徴です。
誕生日毎に身長と体重を測定する必要があります。

第2フェーズ:およそ6歳〜成長スパートが始まるまで(FUNdamentalとLearn to Trainのステージ)
この段階は安定した成長(平均5㎝/年)が特徴です。
誕生日ごとに身長、座高、腕の長さを測定します。クラブで測定する場合、その年の最初の測定は、シーズンの始めに行います。PHVの発現が確認されたら、身長、座高、腕の長さの測定は、3ヶ月ごとに行います。

第3フェーズ:成長スパートから成長のピークまで(Train to Trainのステージ)
この段階は、急激な成長が特徴です。スパート期の最初の1年間は、平均して約3インチ(7cm)、2年目には男の子で約3.5インチ(9cm)、女の子ではおよそ2.3インチ(6cm)と3インチ(8cm)成長します(Tanner、1989年)。
体のどの部分が最も速く成長しているかを観察するために、身長、座高、腕の長さを3ヶ月ごとに測定し、記録する必要があります。
重心位置、脚の長さ、および腕の長さの変化は、急速な成長の結果としてプレーヤーが協調性やスピードを失っていることをコーチが理解するのに役立ちます。

第4フェーズ:身長速度のピークから緩やかな減速へ(Train to Trainのステージ)
この段階は、急速に身長の伸びが減速するのが特徴です。
身長、座高および腕の長さを3ヶ月ごとに測定して、減速度をチェックする必要があります。この段階では、減速後の有酸素性パワーと筋力トレーニングの開始時期を確認することができます。

第5フェーズ:成長の緩やかな減速から成長の停止まで(Train to Competeのステージ)
緩やかな減速はPHVの1~2年後に始まり、成長の停止とともに終了すします。
トレーニングの負荷や強度は徐々に決定することが推奨されます。
この段階では、すべてのトレーニングが可能になります。

第6フェーズ:成長の停止(Train to Winのステージ)。
この段階では、アスリートの長所と短所を個別に診断し、トレーニングの負荷や強度をコントロールすることが推奨されます。

(1)成長スパートの開始、(2)PHV、(3)初潮の開始という生物学的なしるしを用い、コーチは成長期の子どもたちに対して最適なトレーニングを行うことができます。

精度の高い測定方法

子ども達の測定をする際には、適切な技術を使用する必要があります。測定に誤差が生じると、プログラム設計の効果が低くなります。誤差が生じる可能性を減らすために、以下のことを確認しましょう。
  - 環境は一定で管理されていること(同じ場所、同じ器具)。
  - 衣服は一定でかさばらないこと
  - 足元は裸足である。
  - 子ども達は協力的である。
  - 標準化された一貫した手順に従っていること。

成長速度を決定するには、正確な測定が必要です。したがって、測定は0.1cm単位で行う必要があります。測定は2回行い、0.4cm以上の差が生じないようにする必要があります。それ以上の差がない場合は、2回の測定の平均を取ります。それ以上の差がある場合は、3回目の計測を行い、3つの計測値の中央値を算出しましょう。

子どもの身長を測定する場合、正確な結果を得るためには特別な注意を払うことが重要です。理想的には、2人の測定者が同席し、1人が子どもの位置を決め、もう1人が測定結果を記録することです。2人目の測定者がいない場合でも、有効な結果を得ることは可能ですが、測定者は技術に十分な注意を払う必要があります。

測定タイミング

コーチやサポートスタッフは、測定に過度にこだわらない方がよいでしょう。
頻繁に測定しすぎると、次のような結果になることがあります。
  - 参加者が退屈する可能性がある。
  - 参加者が測定に夢中になる可能性がある。
  - 測定期間の間隔が、実質的な成長を可能にするのに十分でない可能性がある。

このようなことから、以下の測定ガイドラインが推奨されます。
   - 四半期に一度は測定する。
   -できるだけ同じ月に同じ日に測定する。
   - トレーニングセッションの一部を計測のために確保する。
   - 前日の練習の影響を受けないようにするため、休息日の翌日に測定する。
   - トレーニングの影響を受けていない、練習の最初に測定する。

コーチが、子どもたちがすでに成長期に入っていると考えていても、3ヶ月ごとに測定すれば、アスリートがPHVの段階を過ぎているかどうかがわかります。
成長期前の幼い頃から測定しておけば、コーチは、子どもの成長速度に応じてトレーニングプログラムを調整することができます。
PHVが発生する年齢(通常、女性は12歳、男性は14歳)より前に、できるだけ多くの測定を行うことが有益です。

成長情報の活用

PHVを測定することは、成長を追跡することである。成長速度曲線をモニタリングし、成長のタイミングとテンポを認識することは、成長期の子どものトレーニングに不可欠である。成長をモニタリングし、成長のパターンをプロットすることは、コーチが成長速度に応じてトレーニング、競技、回復プログラムをどのように調整するかを決定するのに役立ちます(詳しくは6章と9章で説明します。)
PHVの発現後、3ヶ月ごとに身長、座高、腕の長さを測定することで、体のどの部分がどのような速度で成長しているかがわかります(通常、足と手から始まり、次に脚、腕、そして最後に体幹が成長します)。これにより、コーチは、成長が技術、スピード、柔軟性に与える影響をより良く理解することができます。

成長測定の概要

成長期前、成長期中、成長期後の成長をモニタリングすることは、アスリートのトレーニングを最適化し、個々の発達段階に応じた適切な計画を作成するために非常に重要です。以下は、コーチがアスリートをモニターし、長期的な成長のためのトレーニング、競技、回復のプログラムを開発する際の指針となる要約です。
  - 早熟型、平均型、晩熟型を識別するために、成長測定が必要である。
  - 成長スパートの開始、PHV、初潮の開始を判断し、成長のテンポに合わせてトレーニング、競技、回復プログラムを調整する必要がある。
  - 成長をプロットすることで、成長が減速し始める時点を特定できる。
  - 平均型と晩熟型は、早期に成長を測定することによって識別ができる。
  - 初潮は成長が減速して約1年後に始まるので、コーチはその時期を推定することができる。
  - 成長スパートが始まる前に、誕生日またはクラブでのシーズンの開始時に、座高を測定する必要があります。
  - 成長スパートが始まった後は、身長、座高、腕の長さを3ヶ月ごとに測定してください。

結論

年齢、特に相対年齢と成長年齢は、子どもたちのスポーツや身体活動への参加と達成に大きな影響を与えます。活動年齢の早い者は初期に有利であり、遅い者は初期に不利になるため、相対年齢のモニタリングは不可欠です。
コーチは、相対年齢の格差がもたらす結果とその解決策について、アスリートや保護者に伝えることができるようになる必要があります。
また、年齢差は、発育年齢を予測するのに有効な手段ではありません。成長期に早熟型、平均型、晩熟型を識別することは、発達に適したトレーニング、競技、回復プログラムを提供するために不可欠です。身長、座高、腕の長さの測定による成長モニタリングは、コーチが早熟型、平均型、晩熟型を特定し、発達に適したトレーニングや競技プログラムを作成するために役立ちます。

※ここまでの文章はLTAD第5章「年齢」
 を訳したものを簡単にまとめた内容になります。

まとめ

今回の章は年齢(相対年齢、成長年齢)の詳細について説明したものでした。
この観点から、中学校の部活にLTADを応用するための視点としては
①部員の相対年齢、成長年齢、スポーツ開始年齢を調査する。
②成長速度曲線から読み取れるフェーズを保護者と選手に開示し、今後の指導につなげる。
ことなどが考えられると思います。

①部員の相対年齢、成長年齢、スポーツ開始年齢を調査する。

入部した生徒の相対年齢効果を調べるためには誕生月を調べれば良いので簡単です。また、スポーツ開始年齢はアンケート調査で知ることができます。
成長年齢は成長速度曲線を作成して、知ることができますが、LTADに書かれているような方法は難しいので、私は年度はじめの発育測定の結果を利用して、簡易的な成長速度曲線を作成しています。

②成長速度曲線から読み取れるフェーズを保護者と選手に開示し、今後の指導につなげる。

成長速度曲線は、ややもすると最終身長予測であると勘違いされがちです。そこを勘違いされることなく、保護者や選手に説明することが重要です。
選手や保護者には、フェーズを知ることが適切なトレーニング計画や怪我の予防に有効であることを理解してもらい、この取り組みに協力していただく必要があります。その効果的な方法については現在試行錯誤中です。

今後は、成長年齢だけではなく、スポーツ開始年齢などによるグルーピングについても実施していきたいと考えています。

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