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[短編小説] 僕らのボス(5)終


「所謂ロボット、ヒューマノイドなのね。この前のラボからの電話もボスの破損についてだったの。あの日、夕方からすごく雨、降ったじゃない?緊急の案件で、傘も持たずに飛び出してさ、ショート寸前で依頼人に会ったの。そしたらやっぱり例の裏稼業の方々で…。そこからは言わなくても分かるだろうけど」

果たしてそんな映画のようなことあるのだろうか。
うまく情報を処理し切れない僕を置いて西宝さんは続ける。

「だから中身は元のボスのまんま。仕事の事も全部把握してるし、話し方、仕草、癖、全部同じなの」

西宝さんは、もう自分の役目は終わったとばかりに冷めたコーヒーを一気に飲み干した。
冷めたそれはあまり美味しく無かったのか、
少し顔をしかめ「まだやり残した仕事があるから」
と僕を残し事務所に戻っていった。

僕は何も考えることが出来ず、テーブルに残された千円札と空になったコーヒーカップをただボーッと眺めていた。


あれから何時間経ったのだろう。なんだか今日は熱っぽいし体も動かしにくい、やっぱり体調が悪い気がする。ここ数日で色々ありすぎて疲れが出たのだろうか。とにかく帰ろう。

外に出るといつの間にか雨が降っていた。

 ——雨は嫌いだ。

どうしてだろう、何故嫌いなのか、いつから嫌いなのかも分からない。幼い頃の記憶があまり思い出せない。両親や兄弟との記憶、それすら今はうっすらとモヤがかかったようだ。

なんだろう…頭が痛い…頭が割れそうだ…。体が熱い…。

ふらふらとしながも足は家に向かっている。

 ——「あっ」と思った時にはもう目の前に車がいた。

「だ、大丈夫ですか!すぐに救急車呼びますから!」

運転手だろうか、焦ったその声を、妙に冷静に聞きながら僕は意識を手放した。


電子音が耳を刺激した。
どこか懐かしい、遠い昔、耳にしたような——

そして、思い出したかのようにゆっくり目を開けると、そこには清潔そうな白い天井が広がっていた。

何やら僕のすぐ側で若い男の声が聞こえた。



「あ、先生!B1022が正常に再起動したようです」



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