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[短編小説] 僕らのボス(4)


「おはようございます。今日は早いんですね」
と、凝った肩を揉みながら扉を閉める。
「おはよう」と言う西宝さんと安堂さんの後ろには何やら男性がいる。
「あれ、そちらの方は…」
「紹介するわね、こちら新しいボスよ」
ゆっくりと振り向いた顔はどこか懐かしさを感じるような、どことなくボスに似ているような、そんな男性だった。
「初めまして…で良いのかな?これからは気持ち新たにここのボスとしてやっていくよ。よろしくね」
「あ、はい。よろしくお願いします」

なんだ、対応が早すぎないか。
それにこの男はどこから来たんだ?
結局ボスはどうなった?
葬儀や保険についての連絡はあったのか?
僕には何も教えてくれないのか?

いろいろな疑問が頭の中に湧いてきたが、
新しいボスに失礼かもしれないと思い
後で西宝さんに聞くことにした。

「あ、そういえばこの前の案件はどうなった。ちゃんとひとりでできたのか?」
といきなり目の前の男から今進めている仕事について振られたため、もう既に引き継ぎができているなんて、と驚いた。
「えっと、はい、なんとか進めてはいますが」
「おお、そうかそうか。な?やればできるだろ」
と新しいボスを名乗る男は背もたれにグッと背を預けた。

僕は言葉を失った。

——何故だ。何故ボスの口癖を?

ありきたりな言葉ではあるが、今のタイミングで初対面の僕にかける言葉だろうか。
疑問だけでなく、不安や不信感は募っていたが、
とりあえずその場ではなんともないフリをしていた。

その後、僕はすぐに西宝さんを呼び出し
「どういうことですか」と詰め寄った。
とりあえず立ち話もなんだし、ということで近くの喫茶店で詳しく話してもらうことになった。

「そうだよね。流石に異変、感じるよね。
いつかこのことに気付くんじゃないかって、いつか話さないとって思ってたの」

注文を取りに来た店員さんに、
それぞれコーヒーとカフェオレを頼み、話を続ける。

「まさかこんなに早く話すことになるなんてね…」
と呟いた西宝さんに堪らず
「このことって、ボスが死んだことも関係あるんですよね」と質問した。
「うん、そう。厳密に言うとボス、死んでないの」

僕は耳を疑った。
一体何を言っているんだ。どういう意味なんだ。
必死に思考を巡らすが自分を納得させる答えは出ない。

「お待たせいたしました」と飲み物が運ばれてくると
西宝さんの前にカフェオレ、僕の前にコーヒーが置かれる。
それをお互い無言で交換し、喉を潤す。

「えっと、どういうことですか?ドッキリとかですか?」
西宝さんはにこりともせず、真剣な表情のまま
「とりあえず驚かないで話を聞いてね」と言い、
もう一度コーヒーに手を伸ばし、再び話し始めた。

「実はボス、人間じゃないの」
「えっ…」 

(5終に続く)

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