幻想的な霊界旅行⁉宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』①
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6月第2作目には、宮沢賢治の童話、『銀河鉄道の夜』を取り上げます。
『銀河鉄道の夜』は宮沢賢治の代表作の一つです。
孤独なジョバンニが、友人カンパネルラと銀河鉄道の旅をする物語。
大正末から書き始められ、晩年まで推敲が続けられましたが、賢治の死去により、未定稿のまま遺されました。
宮沢賢治『銀河鉄道の夜』
――幻想的な霊界旅行⁉天上の世界へようこそ。
宮沢賢治(1896~1933)
〈書き出し〉
「ではみなさんは、そういうふうに川だと云われたり、乳の流れたあとだと云われたりしていたこのぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか。」
先生は、黒板に吊るした大きな黒い星座の図の、上から下へ白くけぶった銀河帯のようなところを指しながら、みんなに問をかけました。
〈名言〉
なにがしあわせかわからないです。
ほんとうにどんなつらいことでも
それがただしいみちを進む中でのできごとなら、
峠の上りも下りも
みんなほんとうの幸福に近づく一あしずつですから。
〈あらすじ〉
「このぼんやりと白いものがほんとうは何かわかりますか」
理科の授業で先生から指名されると、ジョバンニは、答えを知っているのに、うまく答えることができませんでした。
朝も午後も仕事がつらいので、学校でも眠く、どんなこともよくわからない気持ちがするのです。
友人のカムパネルラも先生に指されましたが、ジョバンニが気の毒で答えませんでした。
「このぼんやりと白い銀河を大きないい望遠鏡で見ますと、もうたくさんの小さな星に見えるのです。ジョバンニさんそうでしょう」
先生がそういうと、ジョバンニは真っ赤になってうなずき、たまらなくあわれな気持ちになりました。
学校の帰り、町の活版印刷所での仕事を終えると、ジョバンニはパンの塊一つと角砂糖を一袋買って、走って家に帰りました。
ジョバンニの住む裏町の小さな家では、病気の母親が待っていました。
ジョバンニは、
「ねえお母さん。ぼくお父さんはきっと間もなく帰ってくると思うよ。
だって今朝の新聞に今年は北の方の漁は大へんよかったと書いてあったよ」
と、漁で長く家に帰っていない父親のことを話しました。
父親は監獄に入っているという噂もありますが、ジョバンニは、
「お父さんがそんな悪いことをした筈がないんだ」
と信じています。
今夜はケンタウル祭です。
ジョバンニは、朝届かなかった牛乳を貰いに行くついでに、お祭りを見てくると言って家を出ました。
きれいに飾りつけをされた町で、ジョバンニは、クラスメートに父親のことをからかわれます。
そのなかにカムパネルラも居ました。
カムパネルラは気の毒そうに笑っているだけでしたが、ジョバンニは寂しくなって、黒い丘の方へ走り出しました。
まっ黒な、松や楢の林を越えると、俄かにがらんと空がひらけて、天の川がしらしらと南から北へ亘っているのが見えました。
ジョバンニは、丘の頂にある「天気輪の柱」の下に寝ころびました。
すると、銀河ステーション、銀河ステーションという不思議な声がして、誰かが金剛石(ダイヤモンド)をばら撒いたかのように、眼の前がさあっと明るくなりました。
気がつくとジョバンニは、小型の鉄道の車室に外を見ながら座っていたのです。
すぐ前には、ぬれたようにまっ黒な上着を着たカムパネルラが座っていました。
「みんなはね、ずいぶん走ったけれども遅れてしまったよ」
と言うカムパネルラは、なぜか少し顔が青ざめて、どこか苦しいようでしたが、すぐに元気になりました。
一条の鉄道路線は、天の川の左の岸に沿って南へ南へとたどって行きます。
天の川のきれいな水は、ガラスよりも水素よりもすきとおって、ちらちら紫いろの波をたてたり、虹のようにぎらっと光ったりしながら流れていきます。
野原には、あっちにもこっちにも、燐光の三角標(測量の際に三角点の上に置いて用いる角錐形の標識)が美しく立っていました。
「おっかさんは、ぼくをゆるして下さるだろうか」
いきなり、カムパネルラが、急きこんで言いました。
「誰だって、ほんとうにいいことをしたら、いちばん幸(さいわい)なんだねえ。
だから、おっかさんはぼくをゆるして下さると思う」
カムパネルラは、なにか決心しているように見えました。
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