38日目
今日も午前3時に目を覚ます。
やはり眠れない。
実家の両親を起こしてはいけないと思い、布団で2時間ゴロゴロしていた。なんだか変に気を使う。
今日、社長に僕たちのことを話すことになっている。
どんな反応をするだろうか?
おそらく驚きすぎてすぐには受け入れられないだろう。
どうしていくかよりも、どうしたいかを伝えよう。
もう僕には失うものも、守るべきものも何もないのだから。
妻からメッセージが入る
何時に話をしますか?
今日は、朝から昼過ぎまで予定が詰まっているので、午後3時と答えた。
「同席します」
シンプルな返答だった。
昼、急激な眠気に襲われる。食事もそこそこに昼寝をした。
ある程度スッキリしたが、それでもモヤモヤする。
ちょうど時間通り午後3時から、社長と交えて3者面談。
2人で来たので、社長は何事かと身構える。
僕も経験があるのだが、あらたまって話があるというのは、
絶対にいい話ではない。
社長もただ事ではないことを瞬時に理解したようだ。
「どうした、2人で」
と社長から聞かれたので、
「実は、離婚します。これから調停に入ります」
と僕は答えた。
社長は、うな垂れるように
「えー、この大変な時期に!どうして」
と驚きなのか嘆きなのか、どちらともつかない苦しそうな声を上げた。
「妻の不倫が原因です。裁判の用意もあります」
と僕は冷静に答える。
「相手は?社内の人間か?」
「いえ、違います。数年前から関係はありました」
「で、これからどうするのだ?今の時期、どちらも抜けてもらっては困るぞ」
と聞かれたので、僕は
「もう何も守るものも、失うものも何もないので、独立も視野に入れています。今すぐというわけではないのですが」
と言った後に妻は
「私は、このまま会社で仕事をさせてください。子供のこともあるので、今辞めるわけにはいかないのです」
と言った。
「2人で話がしたいから、席を外してくれないか?」と社長が妻に促し、そのまま妻は何も言わずに部屋を出た。
少しの沈黙の後に、社長が口を開いた。
「お前に会社を引き継がせるつもりだった。こんなことになってしまって、正直どうしたらいいかわかない。3年〜4年で、お前に譲りたい」と社長から言われた。思わず涙が出てきた。
そして泣きながら、
「僕は、本当に何もいらなかったんです。ただ、仕事と家族さえいればそれだけで幸せでした。でも、本当にもう何もないんです。社長と一緒に仕事ができてよかったです」と必死に話をした。
「この会社を引き継げるのは、ほかに誰もいない。お前しかいないんだ。だから、力を貸してくれないか?3年でいい状態でお前に渡すから」
会社に対しての思いや、会社を取り巻く人たちからの期待。
そして、今まで積み上げてきたもの。いろんな気持ちが一気に押し寄せた。
会社の状況や、人員などを考慮すると社長にもその選択しかないのだろう。
この先のことは、正直わからないが会社や社長に迷惑をかける訳にはいかない。
だから僕は
「わかりました。会社は僕がやります」
と答えた。
今期は赤字だ。3期連続赤字を出すと会社は潰れる。
来期思い切ったことをしないと、おそらく会社は潰れる。
その件を、コンサルタントにメールしたら、引き継ぐ時の条件をしっかり明示した方が良いとのことだった。
負債の責任はどうするのか?株式の問題は?など。
家庭はすでに折れてしまったが、
会社も維持するのには骨が折れそうだ。
舌の根も乾かないうちに、やっぱり譲らないとも言いかねないわけで、
僕も心変わりするかもしれない。前途多難だ。
いずれにせよ、僕が会社に残ることになれば、妻には辞めてもらうしかない。コンサルタントにも言われたが、残しておくと後で恩を仇で返されかねないとのことだった。
なんとなく想像がつく。僕が経営者になれば、雇用される側の権利が異常に強い日本においてかなり不利になる。
社長になる前に辞めてもらうしかない。
彼女が招いた結果だから仕方がない。