父の師匠 【故・成田勝人氏】
写真は父・西川講生です。
父の師匠である故・成田勝人氏は熊本県最南部にある一勝地焼の10代目でした。
今回は
公式ホームページの焼き物日記に書いた内容を加筆・修正した文章となります(^^)
盗む人
物騒な見出しですが、文字通り“盗む人”つまり万引きについて。
普段の展示場ではめったにありませんが、人がごった返すような合同展や陶器市なんかでは
「あれ?包んだ覚えがないのにぐい呑みが無くなってるな…。」
ということがたまに起きます。
そうです。作品を盗む人がいるのです…!
父が一勝地焼で修業していた時代は“陶芸ブーム”があって、山の中にある窯元にも大勢のお客さんが訪れていたそうです。
その時代にも“盗む人”はいたようで…。
不自然に開いた傘を持っている人が、ぐい呑みや一輪挿しなどの小さな品物を傘の中に放り込んで帰っていくことがありました。
そんな時に成田氏は問い詰めることもなく
「盗んだ品物と一緒に悪い因縁も持って帰ってもらったんだ。気にすることはないよ。」
と言っていたそうです。
父から話を聞き、とても信心深かった師匠を表すエピソードだな思いました。
窯の神様
父が修業していた1970年代は、今以上に“窯の神様”への信仰が厚かったそうです。
成田氏は窯焚き1週間前から水をかぶって体を清め、毎日お経(※神道と仏教が混ざっていたため、祝詞ではなかったそうです。)をあげていました。
いざ窯焚きの日が近づくと、窯の周りを注連縄でぐるっと囲い神聖な場としました。
神道的な考え方から、その当時の修業先では窯場に女性は入れませんでした。
しかし、ひょんなことから師匠の奥様が窯焚き中に入ってしまい ちょっとした騒ぎになった事が父の記憶に強く残っているとのこと。
時は流れて現在(2020年)の中平窯では、そこまで厳しい作法はありません。
注連縄を飾ってはいますが、男女関係なく窯場へ入れます。
しかし、
窯に祈りを捧げ火を入れた瞬間の時間・雰囲気というのは なんとも言えない感覚になります。
全身が窯場の空間ごと静寂に包まれ、なんと言うか気が引き締まる特別な時間です。
こういう、言葉ですべてを説明できないことこそ大切なんだろうなと思っています。
さいごに
成田氏は父に非常に強い影響を与えた方でした。
父曰く修業先から飛び出したこともあるそうですが、成田氏がいなければ窯元・西川講生は誕生していなかったでしょう。
私は直接お会いしてことはありませんが、父を通して私も成田氏の影響を受けているはずです。
残念ながら一勝地焼は成田氏の代で廃業し、18世紀後半から続いてきた歴史に幕を閉じました。
しかし、
分かりやすく目に見える形ではありませんが、成田氏が紡いできたことは父・西川講生や私の中にも繋がっているのだろうと思っています。
2023年9月24日(日) 西川智成