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#002|器械出しの洞察力を高める4つの要素

昨日のnoteでは僕の器械出しに対するポリシーを紹介ました。

要約すると、「いかなるときでも要求される器械を間髪入れず渡したい」というのが僕のポリシーです。

器械出し経験がある人なら分かると思いますが、間髪入れず器械を渡すためには「言われてから器械をピックアップして渡す」では遅いんです。
理想的なのは、言われる前に器械を手に持っている状態。手に持っていないにしても、少なくとも目の前にある状態でないと、間髪入れず渡すことはできません。

ということは、僕がポリシーとする「間髪入れず器械を渡す」を実現するためには、外科医が言葉に出す前に、要求されるであろう器械が予測できていなければなりません
予測ができていれば、次に使う可能性のある器械を手に持っておく、あるいは近くに持ってきておくことができますから。

器械出しにおける「予測」とは?

予測する力が強いと、次に使う器械をより少ない点数に絞ることができ、かつ正答率も高くなります。これはどちらか一方だけではダメで、双方が満たされていなければなりません。

たとえば、

  • 次に使うであろう器械を3点に絞れるけど、全部ハズレることがある

  • 次に使う器械を10点にしか絞ることはできないが、その中に必ず正解の器械がある

これでは、予測とは言えません。
次に使うであろう器械を限りなく少ない点数まで絞ることができること、かつその中に必ず正解があること。器械出しの予測とは、この2つを同時に満たす状態が必要です。

たったひとつの正解は存在する

オペ中には意図しない出血などで「何でもいいから噛めるものをくれ!」のような気持ちで外科医から手を差し出されることもあるので、必ずしもたったひとつの正解に絞れるわけではありません。

しかし、外科医が「剥離鉗子!」と発するということは、その場面では剥離鉗子がほしいのであってペアンではないのです。
もっともっと日常的な内容に置き換えるとすれば、スープを飲む時にスプーンがなければ、ここではスプーンが欲しいのであって、決して箸やフォークではないのです。

経験を積んだ外科医ほど、どんな症例でも同じ症例かのようにオペをします。だからイージーな症例だろうが困難な症例だろうが、使う器械はほぼ一緒。これは、経験を積む中で外科医の手技が確立するからであり、器械出しから見れば「いつもと同じ」に見えてしまうわけです。
ということは、たったひとつの正解は器械出しが考えている以上に存在するはずなんです。

予測できる器械出し=洞察力の高い器械出し

それでは、要求されるであろう器械を限りなく少ない点数に絞り、かつ正答率が高い状態にするためにはどうすればよいのか。もっと上を目指すのなら、たったひとつの正解を高い確率で導き出せる器械出しになるにはどうすればよいのか。
言葉にするととても簡単で、予測する力を高めれば良いわけです。

僕はこの予測する力を、タイトルにも書いた通り「洞察力」と呼びます。洞察力は、辞書上で「物事を観察して、その本質や、奥底にあるものを見抜くこと。見通すこと。」とされています。

皆さんは、マニュアルのないイレギュラーな術式において、先輩がうまく器械出しをしている場面を見たことがないでしょうか。マニュアルがないのに、なぜ次の器械を予測できるのか。
それは、先輩の洞察力が高く物事の本質を見抜く力があるからです。

器械出しの現場ではよく「応用が効く」と表現されますが、深い知識と多様な経験を積む中で物事の本質を見抜けるようになったからこそ、イレギュラーなオペにも対応できるのです。

個人的に、器械出しのエキスパートに共通する点はこの「洞察力」だと思っています。だから洞察力を高めることこそエキスパートへの近道だと考えているし、僕自身も器械出し教育においても強く意識しています。

しかし洞察力は抽象的で具体性がなく、分かりにくい。それではもっと具体的に、洞察力を構成する要素は何なのか。ここからが今回の本題です。

洞察力を構成する4つの要素

僕は器械出しにおける洞察力の要素を以下の4つであると考えています。

  1. 医師の特性(いわゆる癖)

  2. 術式(手術展開)

  3. 手術手技

  4. 器械に関する知識

この4つを掴むことができれば、1+1の答えが確実に2であるように、オペ中の多くの場面で次に要求される器械を「これしかない!」というたったひとつに絞ることが可能であると考えています。

「じゃあ、それぞれの要素を高めれば洞察力が向上して予測できるようになるんだな」と考えがちですが、ここが難しいところ。

洞察力の4要素は連動させて学ぶ

たとえば、ひたすらマニュアルを読んで手術展開を頭に叩き込んでも、予測する力は向上しない。あるいは手技を知るために解剖だけを勉強しても、これまた予測する力は向上しない。

何が言いたいのかというと、洞察力を構成する要素は、単独ではなく連動させて学ぶ必要があるということです。これまで何百人と器械出しを育成してきましたが、めちゃくちゃ勉強しているのに結果が伴わない器械出しって意外と多くて、その要因が「連動」なんですね。

おそらく皆さんはこのnoteを読んで「???」になっていると思います。次回はもっと分かりやすく「洞察力を構成する4つの要素を連動させて学ぶための公式」をお伝えしようと思います。

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