
#003|「器械出しとしての洞察力を磨く4つの要素」を連動させて学ぶ方法
前回のnoteでは、器械出しの予測する力=洞察力を高めるための4つの要素を紹介しました。また、4つの要素は単独ではなく連動させて学ぶ必要があることも併せてお伝えしました。
今回のnoteでは、4つの要素を連動させて学ぶための具体的な方法を紹介しようと思います。
器械出しの洞察力を高める4つの構成要素(おさらい)
まずはおさらいから。
これはあくまで持論ですが、器械出しの洞察力(予測する力)を高めるためには、次の4つの要素が必要です。
医師の特性(いわゆる癖)
術式(手術展開)
手術手技
器械に関する知識
この4つの要素を強化すると、次に使うたったひとつの器械を導き出せる、つまり予測する力の高い器械出しになれると僕は考えています。
しかしこの4要素はどれかひとつが飛び抜けて高くてもダメで、全ての要素がバランス良く満たされていないと予測には繋がりません。
洞察力を磨く4つの要素を連動させて学ぶための具体的な方法
4つの要素をバランスよく満たすためには、弱い要素、あるいは欠如した要素を見つけ出し、強化する必要があります。
弱い要素を見つけ出す具体的な方法として、僕は下記のように「4つの要素をひとつの文章の形にする方法」を実践しています。
「Dr.Aは、場面Bにおいて、手技Cをするために、器械Dを使う。」
「Dr.A」には医師の名前、「場面B」には手術展開、「手技C」には具体的な手術手技、「器械D」には器械を当てはめます。
A〜Dの全てが埋められる場合、「誰が、いつ、どこで、何使うのか」が分かっている状態なので、術野を見てさえいれば確実に器械を予測することができます。逆にいずれかの要素が欠如している場合、欠如する要素が多くなるほど、予測する力は甘くなります。
具体例
THA後方アプローチにおける股関節展開の場面を例に、A〜Dを埋められない場合と、すべて埋められる場合とで比較してみようと思います。
架空の場面なので、執刀医は中村とします。
A〜Dを埋められない場合
(A)Dr.中村は、(B)股関節展開において、(D)エレバを使う。
A〜Dを埋められる場合
(A)Dr.中村は、(B)股関節展開において、(C)下双子筋以遠をすくい上げるために、(D)エレバを使う。
何が違う?
前者はCの「手術手技」が欠如しています。Cが欠如すると、その場面で使用する器械は準備できるものの、準備した器械が場面内のどのタイミングで使われるかが分かりません。そのため、器械出しは外科医が発する言葉を聞いた後で、手元に準備した器械の中からひとつ選択し手渡すことになります。
このケースでは、外科医の声が聞こえなかったり聞き違えたりした場合、器械を渡すのに時間がかかる、あるいは間違った器械を渡してしまう可能性があります。
これに対しCが埋まっている後者は、その場面で使用する器械が準備できていることに加え、器械がどのような目的で使われるかを理解しています。Cが欠如していた前者とは異なり、たとえ外科医の声が聞こえなかった場合でも、術野さえみていれば正しい器械を渡すことができます。
要素がひとつ欠如しても、器械出しはできる
先ほどの具体例では、Cの「手術手技」が欠如がしていました。4つの要素のうちCが欠如すると「器械の点数はある程度の数に絞れるけど、どれが正解なのかは分からない」という状態になります。
しかし、要素Cの欠如が悪いわけではありません。器械の点数が絞れているので、外科医の声を聞き逃さず素早く反応しさえすれば、問題なくスムーズに器械出しができるわけですから。
とは言え、要素の欠如は危険
実は多くの器械出しに共通するのが、ここまで紹介してきたCの欠如なのですが、Cが欠如した器械出しはとにかく苦しいんです。なぜなら、欠如したCを補うための暗記が必要になるからです。
たとえば僕の施設では、股関節の展開にエレバ、電気メス、長鑷子、0バイクリル、コッヘルを使います。Cの欠如を補うために器械出しが何をするかというと、「エレバ→0バイクリル→コッヘル→電気メス+長鑷子」のように、器械を使う順番を暗記するんですね。そして、この暗記がかなり危険なのです。
器械がどのように使われているのかを理解せずに順番だけを暗記すると、器械出しは術野とは無関係に、暗記した順番だけに従って器械を出すようになります。順番通りに進んだ場合は良いですが、ひとつでも他の手順が間に挟まると、間違った器械を渡すばかりか、その後に渡す器械もすべて間違えてしまいます。
そして何より苦しいのは、本質をすっ飛ばして暗記で対応したとしても、暗記した内容はすぐに忘れてしまうということ。Cが欠如した器械出しは、オペの前日にマニュアルを開いて暗記するという何よりも苦しい暗記生活から逃れられないことが多いです。
4つの要素を文章化して、欠如している部分を強化する
ここまで長々と、洞察力を磨く4つの要素を文章化し、そこに場面を当てはめる方法を紹介してきました。
結局、この方法がなぜ効果的なのかというと、次に使う器械が予測できないような苦手な手術、あるいは苦手な場面において、なぜ苦手なのか、その理由が明らかになること。そして、何を強化すれば良いのかが明らかになることです。
まとめ
今回のnoteでは、4つの要素をひとつの文章にし、そこに特定の場面や自分自身の知識を当てはめることで、欠如した要素を明らかにする方法を紹介しました。
とにかくまずは、苦手な手術、苦手な場面で、文章化をしてみて下さい。苦手意識が強いほど、要素の欠如も多いはずです。
今回は具体例としてCの「手術手技」が欠如した状態を説明しましたが、次回のnoteでは、その他の要素が欠如した場合にどうなるのかを説明します。自分自身の傾向と照らし合わせることで、何を強化すべきなのかがより分かりやすくなるはずです。
また、苦手な要素が明らかになったとしても、その要素をどうやって強化するのか、つまり、どのように勉強すれば良いのかが最大の問題です。
具体的な強化方法、勉強方法についても、今後しっかりとお伝えします。
質問大歓迎
僕のnoteはあくまで頭の中を言語化したものなので、分かりやすく書いているつもりですが分かりにくいと思います。
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