#004|洞察力を磨く要素の欠如と器械出しの傾向
前回のnoteでは、器械出しの洞察力を磨く4つの要素を使って、自分自身が強化すべき要素を見つけ出す方法を紹介しました。
具体例として4つの要素のうち「手術手技」が欠如したケースを紹介しましたが、今回のnoteでは、他の要素が欠如した場合に器械出しはどのような状態になるのかを紹介していきます。
これまでのおさらい
今回のnoteを理解するためには、これまでのnoteに目を通しておく必要があります。
まだ読まれていない方は、読んでいただくことでより理解が深まります。
持論ではありますが、器械出しの洞察力(予測する力)は、次の4つの要素によって構成されています。
そしてこの4つの要素をひとつの文章の形にします。
この文章に「器械出しが苦手だな」と感じる特定の場面を当てはめてみると、A〜Dのいずれかが埋められないはずです。そして、埋められない要素こそが、「予測できる器械出し」になるにあたって強化すべき部分です。
Aが埋められないケースはない
まず、Aが埋められないケースはありません。
Aが示す要素は医師の特性ですが、文章化した場合のAは単なる主語であり、医師の名前が入るだけです。
駆け出しの器械出しはBとCが欠如する
駆け出しの器械出し、例えばオペ室配属後間もないような器械出しは、B(術式:手術展開)とC(手術手技)が欠如します。
例を挙げると「Dr.中村は、よくペアンを使う。」のような形です。手術全体の流れもまだよく分かっておらず、ましてや流れの中で行われる具体的な手技も分かっていないので、器械出しはAとDをもとに器械の使用頻度を「手術の傾向」として掴むようになります。
Bの欠如も駆け出しの器械出しに多い
手術展開すらまだよく分かっていないのに、一部の手術手技のみ良く理解できている、というケースもあります。
たとえば、消化器外科の結腸切除を数回経験した器械出しは、手術の全体像はよく分かっていないけども、腸管吻合の手技はよく分かる、みたいな状態になります。
必死にマニュアルを覚えて器械出しに臨む新人の頃は、全体を万遍なく覚えるのではなく、手術の中でも特に重要な箇所を重点的に暗記するため、このような状態になります。
多くの器械出しはCが欠如する
前回のnoteでも具体例として紹介しましたが、経験のある器械出しも含め、多くの器械出しはCが欠如します。
具体的には「Dr.中村は、腹腔内操作で、剥離鉗子を使う。」のような形です。このケースは手術展開を理解しており、さらに展開ごとに使用する器械も一式理解している状態です。そのため、展開に合わせて必要な器械を準備することができます。数ある器械の中から場面に合わせて必要となる器械を手元に置いておけるので、外科医の声さえ聞き逃さなければ、十分に器械出しができます。
しかし、外科医の声を聞き取れなかったり、あるいは聞き逃したりした場合、器械を渡すのが遅くなったり、誤った器械を渡す可能性があります。また、術野で行われている具体的な手術手技が理解できていないので、術野を見たところでそれぞれの器械を使うタイミングが掴めない(術野を見ても分からない)こともひとつの特徴です。
実はほとんどの器械出しがこのA+B+Dの状態で、僕自身もこれまで経験した術式のうち6割くらいはCが欠如しています。多くの器械出しにCが欠如する理由は、Cの習得が難しいからです。これについては今後のnoteで紹介していきますね。
Dだけ埋められないのは力のある器械出し
A〜Cまでは埋められるのに、Dのみ埋められないケースもあります。たとえば「Dr.中村は、膵頭十二指腸切除の膵切離において、膵臓をクランプするために、◯◯を使う。」のような形です。
使う器械だけが分からない特殊なケースですが、これは知識も経験も豊富な器械出しが、赴任して間もないDr.Aが初めて執刀する手術を担当するような場合に起こります。
世間一般で行われる膵頭十二指腸切除の手術展開、手術手技は理解しているものの、Dr.Aの手術を経験したことがないため、それぞれの場面でDr.Aがどのような器械を使うのかが読めていない状態です。
このケースにおいて、器械出しは予め「膵クランプには何を使いますか?」と確認ができるので、術中に問題となることはまずありません。その術式において必要な器械を術式に合わせてピンポイントに確認できるので、かなり力のある器械出しです。
まとめ
Aの欠如はありえない
Bの欠如、あるいはBとCの欠如は駆け出しの器械出しに多い
多くの器械出しはCが欠如した状態
Cの習得は最も難しい
Dの欠如は力のある器械出し
次回のnoteでは、欠如した要素ごとの具体的な勉強法を紹介していこうと思います。