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M先輩のこと 4

私がしばらく、雲の中を見ていると、なにやら蠢くものがいるではないですか。

よく見ると、それは、宙に浮いた先輩の姿でした。

先輩は、いつものトレードマークのターバンを頭に巻き、天然素材の白のダランとした膝まである長い服を着ていました。

そして、雲の中を、まるでウルトラマンの飛行シーンのように、両手を伸ばして飛んでいるのですが、その体は、ちっとも進んでおらず、右に左に揺れ動くばかりでした。

なぜだろうとようく見て見ると、雲の隙間を縫って下の方から、ニョキニョキと枯れ木のような手が無数に伸びて来て、先輩の片足を掴んでいるのです。

それで、先輩は前へ進めなくなっているのでした。

ああ、地獄から出て来たんだな・・・と咄嗟に私は、そんな風に思いました。

例えるならば、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」のようなものです。地獄からやっと出て来たのに、下から亡者どもに追われているのです。

でも、先輩は、意外にも小綺麗だったので、地獄にそれほど長くいたという感じはしませんでした。

自分なりに必死に上を目指したのでしょう。でも、足を引っ張られて、上へ昇れないといった感じでした。

そこで、ずっとひっかかっていたような感じでした。
その様子を見て、私は、慌てて声を掛けました。

「先輩、こっちです、こっちですよ」と上の方を指差し、「あそこへ行ってください」と叫びました。

「あの光の中へ」

もちろん、心の中で。

すると、先輩がハッとしたようになり、角度を変えて、上の方を目指し始めました

すると、その力に耐え切れず、亡者どもの手がするり、またするりと、抜けていってしまいました。

亡者どもの手を逃れ、ますます勢いを増した先輩は、無事に光の方へ吸い込まれていきました。

その後姿を見送りながら、私は先輩にこう話しかけていました。

「先輩、今度は、与えられた性を全うしてね」と。

と言うのも、私はM先輩が、本当のおかまではないと思っていたからです。

本当は作られたキャラなのではないかと疑っていたからです。
なので、今度もし生まれ変わったのなら、持って生まれた性をキチンと生きて欲しいと願ったのです。

それこそが生きづらさの原因ではないないかと考えていたからです。

無事に天国へ着けたかなと思っていると、雲の上から、先輩が顔を見せました。そうして、こちらをじっと見つめているではありませんか。

その様子は、にこやかで、まるで、

「ありがとう、ナカるん♪」と言ってくれているようでした。

ああ、良かった、ちゃんと天国へ行けたのね・・・とこちらまで嬉しくなりました。

その一連の作業が終わると、私は目を開けました。

スマホを見ると、モノの、1、2分で、再びM先輩からフェイスブックの友達追加申請が届いておりました。

それは1分前で、
「ああ、先輩もありがとうと言ってきているんだ」と思いました。

これで、私の仕事は終わり・・・
そう思っていました。
これで、このうるさい、友達申請からも逃れられるだろう、と考えていたのですが、
私は甘かったのです。

そんなんで済む筈もなかったのに・・・。


つづく


☆それでは今日もよい一日を。