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M先輩の思い出 3

いつも明るい先輩にそんな体験があっただなんて・・・と、私はショックを隠し切れませんでした。

おそらく、それ以外にもご両親とは色々とあったのではないかと想像に難くないのですが、そこまでは私には分かりません。

ただ、彼に何となく感じていた違和感、作られた明るさに、なにか通ずるものがあるのではないか?と思ってしまいました。

M先輩は、脚本コースに通っていても、真剣に脚本を書いている様子もなく、卒業制作の脚本の話を聞いても、あまり面白そうでもなく、卒業後はどうするつもりなのだろう?と思っていました。

あの脚本は、最終的に仕上がったのだろうか・・・?

まあ、二年後、私も脚本を仕上げずに卒業しているので、なんとも言えませんが・・・。

その代わり、本人の口からは、さかんにお芝居の話ばかり聞くようになりました。なんとか映画やドラマなどに出演したいという事を言っていました。

どうやら、役者志望のようでした。

けれど、私たちの学校には、俳優科もあったので、素直にそちらへ進めば良かったのではないか?と思うのですが、どうやらそこは自信がなかったようです。

役者になりたい!
人の注目を集めたい!

というそんな欲望があるのに、素直にそこは表現できないのでした。

そこだけは、いつものガツガツさがなくて、なんだかシャイでした。
きっと自信がなかったのでしょう。

やりたいのに、やるのが怖い・・・。
失敗したらどうしよう・・・。
自分なんかに出来るのだろうか?
と、そんな迷いがあったのでしょう。

なので、卒業してからは、バイトをしながら、舞台やドラマのチョイ役を貰ったりして、その度に、「ナカるん~、見て~!私が出ているから~!」と声高らかに宣伝するのでした。

しかし、バイトも長続きせず、半ばプータローみたいな感じで、大きな役を狙う日々で・・・、ろくに食べる物もなかったのだと思います。

(あの頃の私たちは、みんな貧乏でしたね・・・。本当にどうやってやり過ごしていたのかと思います・・・。まあ、私は今でもお金ないですけど・・・(笑))

そんなある日、先輩がシュンとした様子で、私のアパートを訪ねてきたのです。
なんだか疲れ切った様子で・・・。


つづく