ねこ【小説】
「100万回生きたねこって知ってる?」
古びた喫茶店で彼女は一つの絵本を話題に話を振ってきた。
あぁ知ってるよ。何回も生き返るねこの話だ。ある時は王様のねこだったし、ある時は泥棒のねこだった。ずっと誰かのねこだったし、いつも可哀相な死に方をしてはその都度時代を変え何度も生き返った。そんな話さ。
「でも最後は生き返らなくなるのよね。」
あぁそうだな。最後は誰のねこでもない野良猫になるんだっけ。たいそうモテたみたいだけどいつしか素っ気ない態度をとる白い猫と暮らすようになるんだ。やがて子猫が産まれて、時が過ぎる。その子供も大きくなる頃にはさ、二匹ともいよいよ老猫さ。
そして白い猫が亡くなった時に初めて"ねこ"は心の底から泣くんだよね。その後追いかけるように亡くなった。ねこはもう二度と生き返ることはなかった。
「不思議な話よね。なんで生き返らなくなったんだろう。あたしね、ずっと分からなかったんだ。」
真実の愛に出会ったからかな?実際そう解釈する人が多いよね。絵本の帯にも書いてあった。真実の愛の話だって。
「本当にそう思う?あたしね、しっくりこないの。」彼女はそう言うとマグカップに入れたホットミルクをかき混ぜながら窓の外を見た。
しっくりこないか。確かにそういうこともあるかもしれない。実際に"ねこ"と白い猫の愛しあったシーンはほとんど描かれていない。彼女の言うことは一理あるのかもしれないと思った矢先、彼女が続きを話し始めた。
「最後は野良猫になるのよね。その時点で次に生き返ることはなかったんじゃないかな?白い猫に出逢わなくてももう生き返ることはなかった、、
そんな気がするの。
ずっと誰かのねこだったわけよね。でも最後だけは自分の人生を生きてるの。」
白い猫を選んだのも"ねこ"自身だ。
真実の愛だったかどうかは分からないが初めて自分から傍に寄り添った相手が白い猫。
強がりをすることなくそのままの自分でいられる初めての相手が白い猫だった。
「初めて自分の人生を歩んだから"ねこ"は最期に泣いたんだと思う。それまでの"ねこ"は自分の人生を生きていなかったのよ。だから本当の意味で死ねなかったの。何度も生き返ったんじゃないわ。死ねなかったのよ、きっと。」
自分の人生を生きた人だけが本当の意味で最期に死ねるの。そう独りごちると彼女は涙を流した。
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ここのコメントを目にしてくれてるってことは最後まで読んでくれたってことですよね、きっと。 とっても嬉しいし ありがたいことだなー