木陰に鹿【イラストとエッセイ】
あの日、目の前に鹿がいた。木陰で目をつむりジッとしている。お昼寝中なのだろう。穏やかな顔だ。
それをイラストにしたくて、去年撮った画像を引っ張り出してきた。そこには緑の芝の上で寝そべる鹿の写真があった。日差しが強くクッキリと地面に葉の影が映ってる。きっと初夏の時分なのだろう。
暑い中奈良公園を歩いた当時の記憶がよみがえってきた。マウスを握る手にもうっすらと汗をかく。立春を過ぎたとはいえ今はまだ寒い季節である。おそらく錯覚なのだろうが夏にタイムスリップしたような感覚だ。
イラストを描く時、文章を書く時にはそういったことが起こりうる。身体にも記憶みたいなものがあるのだろう。
◇◇◇
丁寧に線をトレースし、色をのせてゆく。
精密に線をひくが写真をそのまま写すわけではない。視線と手を動かし、脳で処理し、心が向かった先だけが、イラストとして目の前に残る。
その過程で何かは省略され、省略された分だけ別の何かが残ったりする。
今回は木を省略した。
地面に映る葉の影と照り返される陽の光で十分だと思ったからだ。
そして、そうすることでイラストを見た人はフレームに収まっていない木を想像することになるだろうと私は考えた。
夏の日差しを逃れて穏やかに木陰で眠る鹿。
その木陰にはあなたもいて、頭上には木の葉が覆っていることだろう。
今日も一日おだやかに。
ここのコメントを目にしてくれてるってことは最後まで読んでくれたってことですよね、きっと。 とっても嬉しいし ありがたいことだなー