中尾嘉男

中尾嘉男

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虚構の網

 第一章  物語の概要。 ○はじまり。 その亡骸は空から降ってきたというから自殺である。 そんな馬鹿げた解釈をする者もいたが、見てみると無数の切り傷が残っていて血の凝固具合いから、刺されたのは死の直前であった事は推測できた。 つまり男は何者かに追いつめられて墜落したのだろうと私は思った。 傷は、深いものや浅いもの、強い力と弱い力、右利きであり左利き、無数の特徴を持っていたが、その正解は、いまいち判然としなかったから不思議である。 彼の身元は直ぐに判明する。 その屋敷の主で

    • 投賽の指導者(カサエルとオクタウィアヌス)

      彼が幼い頃の話である。 父が敗戦側の勢力に加担したために、全ての権力を失ったため、貧しい少年時代をすごした彼は、戦争で名前をあげるしかないという意識が根強かった。 十六歳になった彼に好機が訪れる。 当時、彼が幼い頃のローマは七キロ平方メートル程の小国だったが、戦争によって領土をひろげ、敵対勢力を支配下においていたが、敗戦勢力の手勢を奴隷に従えていたことで反乱が起こった。 十万人の奴隷たちを従えたスパルタクスは剣闘士である。 剣闘士と呼ばれる奴隷たちで形成された軍は、ローマで最

      • 戦乱の焼結

        永禄八年五月十九日。 十三代足利将軍、義輝惨殺。 三好三人衆による騙し討ちであった。 三好長逸、三好宗渭、岩成友通らに奈良興福寺に幽閉された義輝の弟・一乗院覚慶は病に犯されていた。 細川藤孝は、町医者に変装した配下の者に脱出の手筈を説明した。 診察する医者と一乗院覚慶の服を取りかえる作戦で、それは見事に成功し、そのまま甲賀郡甲賀町の和田惟政の元に落ちのびた。 一乗院覚慶は、 「兄上なき今、源氏の嫡流において将軍になれるものはいない。 将軍家に弓をひいた三好三人衆を討伐し、

        • 闇にへだつや、花と水

          「弘化一年に麻布の白河藩屋敷で産まれたんですよ。     二歳の頃に二人の姉と母を遺して父が亡くなったので、幼かった私は父の面影さえも憶えていません。    その後、貧しさゆえの口減らしから九歳で私は今の道場に預けられました。        牛込柳町の道場で丁稚奉公として毎日、炊事洗濯、薪割り水汲み、牛馬の如く働きました。    同世代の遊び友達もいなかったので、いつも一人でいましたよ。    誤解ですが、大旦那様が別の女に産ませた子供だと奥様は思い込んでいたようですので、

          profession painter ~彼の向日葵~

              ひとは、どれだけ挫折を繰り返せば死を選択するのだろうか。     その答えを教えてくれた彼は、もういない。     無数の見えない傷を魂に刻んだ彼は、耐えきれない痛みに何度も自分自身を抱きしめるように胸を掻きむしりながら蹲っていた。     そうやって、彼は魂に死をうえつけていったのだろう。     彼と知り合ったのは彼が天職を見つけた後の事だ。     だけど、彼は幾つもの記録を残している。     それで彼の人生を語る事が出来る。     そう、彼の話だ

          profession painter ~彼の向日葵~

          微笑みを取り戻すために

           乱雑な部屋は、みわたすほどに目眩がした。  怠惰なあたしは、仕事をおえてアパートにかえると、まず衣服を脱ぎちらして毛布にくるまり、コンビニで買ったオカシを頬張っては、常に外部接続のテレビをつけて一時期流行した泣ける映画を見ながら創作した。  人には感情なんてものがある。  そもそも言葉は、それを伝達する手段であって、絵画も、それと類を同じくしたものである。  あたしは、あたしを包んでくれている毛布の感触が好きだ。  創作中は手放すことがない。  まるでライナスだと自分をおも

          微笑みを取り戻すために

          Dearest(嫌われもの)

           あたしはバカ、ほんとーにバーカ。  でも、あんたはもっとバカなんだよね。  生きてちゃいけないくらい嫌われてたんだ、 知らなかったよ。  あんたの吐く科白の全部が、あたしの心を締めつけているって、それぐらいは解ってたけどさぁ。     彼と逢えば、毎日セックスのことばかり考えた。     抱きあってキスしてると夢見心地、なにもかも忘れられた。  それが、将来なん の役に立つとも思えないけれど、大人になるってのはそういうことだと、無精ひげの彼は笑っていたが、あたしには

          Dearest(嫌われもの)

          遺された人

              その日、末期癌だと告げられた。     めずらしくもない病名なのに信じられなくて実感が湧かなかった。     自分の身に突如降りそそがれた不幸を直視できるほど、俺は偉くも強くもなかった。     病院のロビーで辛気臭い顔で、俺は普段どおりの日常の繰り返し。     そもそも生きることが辛いのに、いまさら死ぬことなんて怖くはなかった。 「涙が・・・」     手にはハンカチ。     それを俺に差しだしている女性が言った。 「君も此処に死にに来れば解るよ」    

          遺された人

          肉の重みを噛みしめて

          『 雪 』 冬の雪は嫌いなの。仰向けで男を乗せた裸体のおんな。したたり落ちる相手の汗を額にうけつつ、蒼白の素肌を透かしてみた左手の位置を確認して、そんなことを考えた。 「冬ってね。    なんにも感じなくなるの、あたし。    それにね。    毎年おんなじ悪い夢をみてしまうのよ」    物憂げに話す女の髪のあたりで小さくとまり、眠るところで彼女の首筋から大に広がった綺麗な黒。    彼女の視線はゆっくり揺らぎ、しろく凹凸のない天井にある。    そんな彼女に不服な男。

          肉の重みを噛みしめて