馬レバーは、なぜ生食できるのか
牛や豚のレバーを生で食べることは禁止されている。それどころか、赤身肉の生食、生焼け調理についても厳しくいわれているくらいだ。食品衛生法の違反はもちろんのこと、お腹を壊すし、最悪、食中毒にもなってしまう。
しかし、馬はどうだろう?
馬刺しは文句なしに食べられるし、馬レバ刺しまで普通に提供されている。牛や豚と一体何が違うのか? この理由について、まとめてみた。
馬レバーが生で食べられる理由
馬レバーが生食できる理由は「O157がいないから」。
食中毒を引き起こす病原菌がいないのは、馬の体の特徴にある。
・反芻(はんすう)動物ではない(胃が1つ)
・蹄(ひづめ)が1つの「奇蹄目」
・他の動物より体温が高い
牛や豚とは異なるこれらの特徴から、馬レバーが生食できる理由を解説しよう。
◎馬は「反芻動物ではない」から(胃が1つ)
「反芻動物」とは、胃が4つある動物のこと。牛のような胃が4つある反芻動物は、腸管内にO157を保菌している。馬には胃が1つしかないため、O157がいない。
反芻動物の大きな胃袋は、ホルモンでもおなじみの、第一胃=ミノ、第二胃=ハチノス、第三胃=センマイ、第四胃=ギアラで構成される。食肉になる動物でいうと、牛・羊・山羊・鹿も反芻動物で、この4つの部位がある。
反芻動物は、4つの胃を使い、胃の中に共生する微生物によって食物を分解・吸収している。特に「第一胃」は、発酵タンクの役割があり、微生物による発酵で消化が行われる。胃の中には、細菌や原生動物など、さまざまな菌が生息している。こうしてみると、かつて牛の内臓(牛レバ刺し)を生で食べていたことは、もともとリスクがあったのだろう。
ちなみに豚の胃は「1つ」。それでも豚レバーは、E型肝炎ウイルスやサルモネラなどの食中毒菌のリスクがあるため生食できない。馬がこの問題もクリアしている理由は、次で説明する「蹄の数の違い」や「体温の違い」にある。
◎馬は「奇蹄目」だから(ひづめが1つ)
馬は、蹄が1つの「奇蹄目」
牛や豚は、蹄が2つの「偶蹄目」だ。
この種の違いでも、ウイルス感染の違いがある。
牛や豚では、狂牛病や口蹄疫、E型肝炎ウイルスが心配されるが、馬はこれらのウイルスに感染する受容体細胞が異なる。牛や豚などの偶蹄目が感染する病気にかからないことも、生食ができる理由のひとつだ。
◎馬は「体温が高い」から
馬の体温は、約40度。動物のなかでは体温が高く、寄生虫が少ないことにも大きな違いがある。O157が生息できないことはもちろん、牛や豚の生食で心配される食中毒菌、寄生虫が生息しにくい環境だ。
◎生食用の馬肉は、冷凍処理が行われている
馬は、食中毒を引き起こす病原菌が少ないように思えるが、寄生虫の心配がまったくないわけではない。
犬や馬に感染する寄生虫「ザルコシスティス・フェアリー」対策では、死滅する温度と時間も考えて、-20℃で48時間以上、冷凍処理するように指導されている。「トキソプラズマ」も、熱や低温に弱いため、冷凍保存が有効だ。
国内で流通する多くの生食用馬肉は、生産地で冷凍してから出荷する対策がとられているため、安心して生食ができるのだ。
馬の内臓は、さまざまな部位が生食できる
馬の内臓は、レバー(肝臓)だけでなく、ハツ(心臓)、タン(舌)、大動脈など、さまざまな部位が生食できる。なんと「脊髄(せきずい)」まで、生で食べられるのだ。(牛は特定危険部位となるため脊髄自体が食べられない)。
牛レバ刺しの禁断の食感がよみがえるファンタジー。
それが「馬レバ刺し」だ。
いろいろ生で食べられるのは馬だからこそ。
馬肉専門店を見つけたら、ぜひメニューをチェックしてほしい。