読書日和-#3「わたしの小さな古本屋」:田中美穂著
僕は何はともあれ本が好きです。そしてこの本「わたしの小さな古本屋」は、本を愛する全ての人にとって心温まる一冊だと思います。この本は、岡山県倉敷市の美観地区外れにある古書店「蟲文庫」の店主としての日々を綴ったエッセイです。
田中さんが古本屋を始めたきっかけは、会社をリストラその日、「古本屋になる」という強い思いから始まりました。予算や知識がない中で、自分の手持ちの本200冊で手探りで始めた古本屋は、わずか10坪の小さな空間ながら、本だけでなく苔や羊歯のグッズ、亀などの動植物と共存する独特の雰囲気を持っています。時たま、近所の猫たちの通り道にもなっていたりします。また、音楽イベントなども開催され、ただの古本屋にとどまらない自然で多面的な魅力が詰まっている古本屋さんです。
本書では、開業当初は郵便局でアルバイトしながらの奮闘記や、店を訪れる人々との予期せぬ出会い、郷土の作家のこと、そして苔や羊歯への偏愛など、「蟲文庫」を通した多彩なエピソードが描かれています。
また、店内での小さなイベントや、お客さん同士の偶然の出会いなど、古本屋を介して生まれる人と人とのつながりも丁寧に描かれています。本は単なる商品ではなく、読者と読者、そして読者と店主をつなぐコミュニケーションツールであることが、本書を通じて改めて感じられます。何だか著者の為人が見えてきます。
苔や亀の本を出したせいか、そんな相談に来る人が増えたり、自然と自然科学の本を多く扱うようになったりしているというのも何だかほっっこりするエピソードでした。
「わたしの小さな古本屋」は、古本屋の店主としてのリアルな日常と、本を介した人々との交流、そして自然への愛情が詰まった心温まるエッセイです。本好きな人はもちろん、何か新しいことを始めたい人や、人とのつながりを大切にしたい人にもおすすめの一冊です。読後には、きっとあなたもお気に入りの古本屋を訪れたくなるはずです。本の魅力を再発見し、人とのつながりの大切さを感じる貴重な読書体験を与えてくれる一冊です。
そして見様見真似ではじめた店も、もう20年の日々、大変ではあるけれど、もうやめたいと思ったことは一度もないそうです。社会には脱サラ、編集者くずれ、役者くずれなどはあるけれど「古本屋くずれ」はない。つまりもうこれ以上崩れない場所なんだそうです。面白い。学生時代は暇な時は、大学近くの古本屋ばかり行っていた僕は、何だか羨ましい感じです。
そしていつか「蟲文庫」に本を買いに行きたいと思う本でした。
2025/1/15