
C:circulation 循環管理
Cはおもに血圧管理についてです。
血圧があまりに低くなりすぎると循環不全から心停止や脳虚血などにつながる可能性があります。
つまり、命や後遺症につながってしまいます。
患者さんを救うために崩してはいけない、
崩れたら直ちに治さなくてはいけない大切なポイントです。
内視鏡処置の最中に血圧が下がる要因は、
・出血
・迷走神経反射
・過鎮静
・敗血症性ショック
が主な要因です。
出血
ACLSにおいては消化管出血もCの異常として扱われ、
状況次第では、Cを安定化させる目的で内視鏡をする、ともいえます。
これまでA,Bの説明をしてきましたが、状況次第では内視鏡検査をせざるを得ないのはこの、Cを安定化させる、という部分があるからです。
救命処置を行う上では、A,B,Cいずれも重要で欠かせません。
出血が続いている以上、Cの安定化はないため、
速やかに止血処置を成功させる事は必須で、
そのために内視鏡医のみならず、
内視鏡に関わるスタッフ全員の技術レベルを上げる事が重要です。
(私のこの活動は全国で内視鏡レベルの底上げをして一人でも多くの患者さんが救われる環境を作る目的で行っています。)
迷走神経反射
迷走神経反射は内視鏡処置を行っている際に高頻度で起きる合併症です。
実際に内視鏡室で行う検査・処置で迷走神経反射をきたしてしまうのは珍しくなく、日常的に経験されていると思います。
送気や挿入動作で腸管を延ばした場合、様々な形で内視鏡から腸管へ刺激を与えてしまいます。
内視鏡医もそれは認識した上で検査・処置を行っていますが、完全に防ぐことはできません。
体感ですが、迷走神経反射は起きやすい人がいると思います。
過去に自施設での検査歴がある方は検査前に可能な限りそのような既往がないか、
あるいは本人に直接伺うことで迷走神経反射と思われる経験がある、などを確認し、
検査前の時点で迷走神経反射が起きるリスクが高いかはある程度予想することができます。
過鎮静
鎮静剤を投与しすぎることで、
血圧は下がり、
呼吸は弱まります。
内視鏡で鎮静をかける時の目標は、
内視鏡を挿入していても全く苦しくなさそうに寝ていて、
自発的な運動もほとんどない状態
(自発呼吸は必ず残っていないといけません)
鎮静剤は、
・本人が苦痛を感じない様に
・本人の体動を少なくして処置を行いやすい様に
使用しますが、
それを達成できるための鎮静剤の投与量は人によって全く異なります。
一方で、鎮静剤によって
・血圧が下がり
・呼吸が弱くなる
量も人によって異なります。
それぞれの患者さんが同様の量で、効きやすさ、副作用の出やすさが変化するのであれば良いのですが、
現実的には、そうではありません。
鎮静が効きづらく、副作用が出やすい方がいらっしゃるのが現実です。
つまり、鎮静剤の適切な量の幅が非常に小さい方がいるということです。
この場合、鎮静の難易度が非常に高く、調整が難しいです。
(鎮静が効きやすく、副作用が出づらい方であれば、鎮静剤の適切な量の幅が広く、調整も楽チン)
まずは、
鎮静が難しい人がいらっしゃる
ということを認識してください。
過鎮静を起こさないために
鎮静が難しい人に対してどうやって適切な量を見極めていくか、
非常に重要なポイントとして、
わずかな体動の変化でも正しく敏感に感じ取ることです。
「ついさっきまで鎮静が効いてピクリともしていなかった方の右手が少し動いた」
くらいのレベルまで拾い上げて欲しいです。
鎮静は一度に大量に入れると効き方が極端になってしまうため、
適切な量を維持できません。
こまめにちょこちょこ入れてある程度の効き具合をキープしたいです。
そのためには鎮静が浅くなり出した瞬間に少量追加するのがベストなので、
「わずかに動いた」=鎮静が浅くなり始めた
と認知して鎮静剤の追加を指示できます。
また、鎮静量の指示は内視鏡医が行うことが主かと思いますが、
内視鏡医は内視鏡画面を注視していなければならないので、
一人ではその鎮静が浅くなり始めた状況に気付きづらいです。
周りにいるわずかな動きに気付いた人が声かけを行って、
適切な鎮静量に導けるように声かけをして頂きたいです。
過鎮静になったら
過鎮静になってしまった場合には、
減量や中止、必要に応じて拮抗薬の投与が必要です。
過鎮静が昇圧や下肢挙上、大量補液などで乗り切れると判断される場合には鎮静剤の減量・中止で処置を継続する場合があります。
一方で、乗り切れないほどの過鎮静と判断した場合には
ベンゾジアゼピン系(ドルミカム等)で鎮静していた場合には
アネキセートという拮抗薬を投与して処置を中止する場合もあります。
基本的に拮抗薬を使った後に改めて鎮静をかけ直すのは難しいです。
ちなみにアネキセートの半減期はドルミカムよりも短いため、
先に拮抗薬の効果が切れてしまいます。
再度鎮静がかかる可能性があるため、
一度覚醒してもその後の経過は注意してみる必要があります。
敗血症性ショック(胆管炎)
敗血症性ショックなのにも関わらず内視鏡処置をせざるをえない状況は、
ほぼ、胆管炎の時のERCPに限ると思いますので、それ前提で記載します。
胆道閉塞によって敗血症性ショックを来している場合には、
胆汁がどこかへ逃げられるようにしなければ状態が改善しないため、
敗血症性ショックだったとしてもERCPに臨む場合があります。
前述の迷走神経反射の項でも記載したように、
内視鏡挿入によって血圧が下がる場合もあるため、
血圧が下がるタイミングとしては、
・内視鏡を十二指腸乳頭部まで挿入するとき(カニュレーションを始めるまでのところ)
・過送気した場合
が主です。
逆に言うと、
内視鏡が十二指腸乳頭部まで挿入できていて、過送気しなければ、
過剰に血圧が下がるリスクはなく安定して処置が行えると想定されます。
もっと言うと、
血圧管理においては内視鏡挿入が一番の山場です。
そこを乗り切るためにバイタルを安定させていきましょう。
敗血症性ショックに対する処置は
・十分な補液
・末梢血管をしめて心臓に血液を集める
ことです。
つまり、
十分量の点滴を行い、ノルアドレナリンを使用しましょう。
点滴の量、ノルアドレナリンの使用については後日別記します。
血圧を上げる必須技
下肢挙上は全スタッフが覚えておくべき必須かつ必殺技になります。
ただ足を持ち上げるだけです。
枕2つ分足が上がれば十分です。
掛け布団を丸めて足の下に置く形などしましょう。置くものがなくて人員の余裕があるのであれば一人は足を持つ係にしてしまっても良いかもしれません。
一時的ではありますが、心臓に血液が返ってくれるので、大量補液と同等の効果が期待できます。
何よりも簡単にできるので、
急に血圧が下がってしまった場合、
(状況が許せば)まず下肢挙上してから、
点滴なり、注射なり次のアクションに移りましょう。
Cのまとめ
原因にかかわらず、
結局は
・下肢挙上での循環血液量のキープ
・原因の除去
・補液や昇圧剤での血圧キープ
を行うことになります。
原因の除去は
出血 → 止血処置を成功させる
迷走神経反射 → 腸管内の脱気、内視鏡をpushして伸ばしているのを緩める・処置の手を止める
過鎮静 → まずは過鎮静にならないように少量ずつ鎮静剤が投与できるように体動など細かく鎮静状況の把握、報告。
過鎮静が起きてしまったら鎮静剤の減量・中止の検討、場合によっては拮抗薬の投与。
敗血症性ショック → 原疾患の治療、胆管炎に関しては胆道ドレナージの成功
です。