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B:breathing 呼吸管理
Bは呼吸状態についてです。
気道と似て非なるものです。
バイタルサインとしてはSpO2がわかりやすい指標ですが、
その他、
呼吸の速さ や
呼吸状態 も
バイタルサインの一部として捉えるべきではないでしょうか?
SpO2が良い数値だからといって呼吸が安定していると考えるのは学生レベルです。
目指すのはSpO2>95%などではなく、安定した呼吸状態です。
この文脈で安定した呼吸状態という意味が分からない方はしっかり読み込んで頂ければと思います。(これだけで納得できる方は理解できている方だと思いますので、Bの項目は軽く流してCに進んでください。)
普段の状態を想像してください。
スマホなどでこちらのnoteをご覧頂いているあなたはおそらく呼吸状態が安定していると思います。
当然SpO2の数値は98%以上を記録するでしょう。
また呼吸は特に意識せずとも行っていて、特に速いわけでもない。かつ、特に息苦しい感じであったり、肩で息をしているような状態ではないと思います。
これが安定した呼吸状態です。
逆に呼吸状態が不安定というのは
・呼吸回数が 遅すぎる or 速すぎる
・努力様呼吸
の状態を示します。
SpO2というのは参考にはなりますが、呼吸状態はあくまでも呼吸を行っている動作自体を指します。
SpO2が100%でも努力様呼吸や頻呼吸の状態であれば間違いなく呼吸状態は異常であり、介入が必要な状況です。
あくまでもSpO2の数値が落ち着いているのは努力呼吸で代償できているからであって、逆にいえば代償しないといけないほど呼吸状態が悪い、普通ではない異常な状態と認識すべきです。
内視鏡挿入以前からこのような状況であれば、検査による侵襲で状態が悪化することは明らかです。
検査の直前でそれが分かった場合でも、
本当に今、内視鏡検査をしないといけないのか?
機会を改めて、状態が落ち着いてから行うことができないのか?
は検討すべきです。
呼吸状態の評価
内視鏡検査においては、鎮静剤を使った際に呼吸抑制が起きて呼吸状態が悪くなる場合があります。
つまり、
呼吸回数が少ない
呼吸が止まってしまう
という状況です。
あなたは、
「呼吸回数が減ったかどうか知るためにどうしますか?」
検査前に呼吸回数を見ておくことは良いことです。
しかし、呼吸回数を数えるのは時間がかかるため、あまり採用しない医療機関が多いのではないかと思います。
では、
「モニターで呼吸回数を見る?」
それも悪くないですが、心電図モニターで呼吸回数をカウントする精度はあまり良くないです。
改めて、問いは
「内視鏡室スタッフがどうやって呼吸数を把握しているか?」
ですが、
答えは、
「呼吸を感じている(数えていない)」
というのが正解(だと思います。おそらく笑)
呼吸を感じる
音楽のテンポが速いか、遅いかは皆さんなんとなく分かると思います。
細かいテンポを尋ねているのではなく、
「速い」か「普通」か「遅い」か
という問いです。
厳密さではなく、感覚の話です。(メトロノームでBPMいくつ、とかまで分からなくて良いです。)
一般的には呼吸数10回程度が落ち着いている呼吸と言われますが、
実際は回数はあくまで比較用のデータであって、
患者さんごとに適切な呼吸回数は異なると認識すべきだと思います。
あなたが、
ある患者さんの呼吸が速いと思ったら、
ほかのスタッフにも意見を聞いてみましょう。
おそらく、回数の話よりも、速いと感じるかどうか、
感覚的な話
をされることが多いのではないかと思います。
それは知識不足で数値化できないからではなく、
臨床の現場においては呼吸の回数よりも
速いと感じるかどうか
の感覚の方が重要視されているからだと思います。
私は必ずしも数値化が適切とは限らないと考えます。
コラム:記録を残す上では呼吸数も必要
言語化してカルテ記載する場合には、
「呼吸促迫あり」
の記載のみでも悪くないと思いますが、
後日比較したり、その場に居合わせなかった第三者が理解・共有できるカルテ記載とするためには、呼吸数が記載しているのが好ましいと思います。
あくまで、
現場で判断する際には呼吸数は必須ではない、
記録として残す場合には呼吸数がある方が望ましい、
というのが私の意見です。
ただし、呼吸数を計測するにはある程度の手間や、その数十秒だけですが手が止まってしまうので、急変時など、現場の状況次第では必須項目にはできないと思っています。
呼吸がしんどいかどうか
呼吸に関しては回数のみならず、
呼吸の性状も大切です。
いわゆる、肩で息をしている、
努力呼吸
という状態は対処が必要であることを示しています。
呼吸の回数がさほど多くない、と感じている場合でも、
努力呼吸を放置していれば状態が急激に悪化するリスクがあります。
良くなる見込みがないにもかかわらず経過観察をしてはいけない状況です。
たとえば、
内視鏡室で初めて出会った患者さんが努力呼吸をしている場合
・いつからその呼吸なのか
・その呼吸状態に対して検査、治療介入されているのか
を確認すべきだと思います。
いつから?
昨日からなのか、1ヶ月前からなのか、1年前からなのか、10年前からなのか。具体的に聞きましょう。
「最近、」「前から、」などといった抽象的な表現で終わらせるのは禁止です。(昨日からの話を「前から、」と言う方は意外と少なくないです)
「最近」=急性
「前から」=慢性
を想像するかもしれませんが、
その人の「前から」は数時間前から=急性を指しているかもしれません。
誤解を避け、適切に評価するために、
時間と強度については抽象的な表現を避けて数値化すべきです。
経過観察してよいか
努力呼吸に対して、内視鏡室で出会ったあなたはどうすべきでしょうか?
適切に治療介入がなされていない場合には介入を促す必要があります。
その呼吸状態に対して、
・認識、検査、診断されているかどうか
・認識されてから治療が実行されているかどうか
もし、目の前の患者さんの努力呼吸をあなたが初めて気付いた人である場合には、必ず治療介入が必要です。
前述したように、努力呼吸はそのまま置いておくと急変する可能性があります。
経過観察される場合も珍しくないですが、
経過観察=何もしない ではありません。
あくまでも治療効果を待っている状況です。
全力疾走後の努力呼吸
に対しての経過観察は、
安静によって呼吸が落ち着くのを待っている、という状況です。
心不全で起坐呼吸が出ている人
に対しての経過観察は、
利尿剤によって右心負荷が軽減して呼吸が落ち着くのを待っている、という状況です。
努力呼吸に対して処置・対応がなされているかどうか確認した上で、
経過観察としてもよいか考えてください。
呼吸状態が悪い時の対処方法
呼吸状態が悪くなるパターンは多岐にわたりますが、
内視鏡室でできる選択肢、
あるいは救急外来でできる選択肢はそう多くありませんので、
ひとまずはできることだけを考えることをオススメします。
できることは、
・体位変換
・酸素投与
・補助換気
の3つしかありません。(救急外来では+ネブライザー吸入。当ページでは内視鏡室に関する内容に絞っており記載しませんのであしからず。)
体位変換
無気肺や胸水貯留、心不全などは体位によって呼吸が変わる場合があります。
明らかに心不全を疑うような下腿浮腫などがあれば臥位と座位で呼吸状態が大きく変わる可能性があります。(起座呼吸)
無気肺や胸水貯留の場合、
側臥位でも右が良い場合と左が良い場合と様々です。
体位を変えて良くなるかどうか、
呼吸様式や本人の自覚症状、呼吸数の変化、SpO2など多角的に評価しましょう。
酸素投与
気道が開通していれば、
酸素投与で呼吸状態は落ち着く方向へ持っていくことができます。
前提条件として、
気道が開通
しているのは必須項目、最低ラインです。
酸素投与と同時に、
A:airway 気道の項目もチェックしましょう。
⚠注意⚠
酸素投与で呼吸状態が悪化するパターンとして、
CO2ナルコーシスがあります。
肺気腫(COPD)で普段から低酸素状態になれてしまっている方が、
酸素投与によって、無意識に呼吸をサボってしまって呼吸が止まってしまう状態です。
酸素投与前には気道と共に、肺気腫等、日頃から酸素化が悪いベースがないか確認しましょう。
補助換気
いわゆるマスク換気です。蘇生処置の時に出てくるバックバルブマスクなどです。
補助換気は適切に行えば、
人工呼吸器につないだのと同等の呼吸状態を作ることができます。
つまり、患者さんが呼吸していなくても呼吸状態を完全に維持できる技術です。
これができるので、万が一鎮静によって呼吸状態が止まる可能性があっても鎮静剤を使用することができます。
逆に言うと、補助換気ができない人が鎮静剤を使用してはいけません。
補助換気の方法は、詳しくは、
ACLS協会のBLSコース(日本ACLS協会 https://www.acls.jp/)等で受講して頂きたいですが、
簡単にまとめるとすれば、
・気道を確保して
・しっかりとマスクをフィットさせて
・適切な量の空気を
・適切な頻度で
・絶え間なく続ける
のが補助換気です。
医療者として必須の技術だと思いますので、
BLSコースを未受講の方は必ず早急に受けることを強くオススメします。
(日本ACLS協会 https://www.acls.jp/)
ACLS協会についての宣伝がしつこいようですが、リンクから飛んでも私には一銭も入りませんのでご安心ください。笑
Bのまとめ
呼吸状態は感じられるようになるために、
普段から患者さんの息づかい、呼吸状態を意識して勤務しましょう。
はじめは意識していないと分からないですが、ある程度経つと無意識に異常な呼吸を認識できるようになります。
・呼吸の速さ
・しんどい呼吸か
の2点においておかしいと感じれば、
・酸素投与
・鎮静の中止
・検査の中止、補助換気
が必要ではないか考えましょう。