ヴィクター・ボーグのこと
なぜだか知らないが、13年も前にヴィクダー・ボーグについて書いたブログ記事へのアクセスが増えている。
ボーグ?誰それ?と言われそうなので、簡単に紹介しておく。
ボーグは1909年デンマーク生まれのコメディアンで、1941年にアメリカに移住後、2000年に亡くなるまで主にハリウッドで活躍した人だ。ピアノを使ったギャグ満載のクラシック音楽コントと、絶妙の話芸、エレガントな身のこなしで人気を博し、テレビ出演、レコード録音、そしてコンサート活動を長く続けた。自らオーケストラを指揮することもあり、世界各国のメジャー・オーケストラ、ソリストとの共演も多く、1999年にはケネディ・センター賞を受けるなど、その業績は高く評価された。
該当のブログ記事を書いた頃は、ボーグについて書いた日本語記事がほとんどなかった。彼のことを調べようとしても、資料が見つからない。だからこそ、ボーグの面白さを誰かと共有したくて、ブログを書いたという経緯がある。
あれから長い時間を経て、たまにボーグの名前をX(旧Twitter)で見かけるようになった。何がきっかけなのかは知らないが、ボーグ・ファンとしては嬉しい限りである。
以下、ボーグの評価がさらに高まることを願い、ブログの記事の一部を再掲する。そこで挙げたYouTubeの動画のいくつかはボーグのOffcialチャンネルからリンクしたが、そのほかのものは著作権違反で消されるかもしれない(これまでも何度も消された)。だが、これだけ面白いものが見られなくなるのは、余りにも、余りにも惜しい。
彼のコントの良さは、彼が話す言葉(ほとんどが英語)が分からなくても、その面白さが十分に分かる点だ。彼が発する音への違和感と、彼の仕草の中に、言葉を超えたユーモアがある。ドタバタをやっているようで、常に洗練されたセンスがあって、うるささがないところもいい。とにかく、見るべしである。
ボーグのことは、レナード・バーンスタインの70歳のバースデー・コンサート(1988)の放送を見て知りました。彼がゲストに招かれ、短いパフォーマンスを披露したのです。「こないだワーグナーに会ったら、お前はもうすぐタングルウッドに行ってレニーの誕生日を祝うだろうと言われたんだ」というような枕から始まって、「タンホイザー」序曲をパロディにした「ハッピー・バースデイ」を弾き、満場の拍手を得ていました。勿論、客席のレニーも大喜び。途中で「トリスタン」が顔をのぞかせたりするウィットも最高です。
何ともすっとぼけた味のある爺さん。軽妙なおしゃべり。音楽のことをよく知っていて、見事に設計され尽くしたネタをカッコよく披露するあたりは一流のエンターテイメント。優れた知性を感じさせるところも素晴らしい。
いくつか私のお気に入りの動画を貼って、いつでも見られるようにしておこうと思います。
■間違いを訂正する
■巻き戻しウィリアム・テル
■マペット(月光ソナタ)
(※ピアノの横のベートーヴェンの胸像が笑える)
■難しいパッセージ
■チャイコフスキー/ピアノ協奏曲第1番
■リスト/ハンガリー狂詩曲第2番
■モンティ/チャールダッシュ1
※ヴァイオリンのコントラは、コントラ弦楽四重奏団を主宰していた名手
■モンティ/チャールダッシュ2(ミカラ・ペトリと共演)
※あのペトリが吹き出してリコーダーを吹けなくなってる!でも完璧
これが一番有名な動画かも。「うがい」の場面が最高!
■指揮者ボーグ
■ロバート・メリルとの「枯葉」
■ラウリッツ・メルヒオールとの「帰れソレントへ」
ボーグは、これだけの芸を持った人であり、レニーのバースデイコンサートに招待されるほどの有名人ですから、当然、ニューヨーク・フィル、シカゴ響などのメジャー・オーケストラとも共演しているそうです。また、DVDもアメリカでは結構な数がリリースされて、今でも愛されているようです。
あの有名なダニー・ケイがニューヨーク・フィルを「指揮」した抱腹絶倒のコンサートや、ホフナング音楽祭、あるいはスパイク・ジョーンズといった上質の音楽コント、是非とも私たちが気楽に見られるように日本語字幕付きのソフトとして発売してほしいと思います。
補足。
ヴィクター・ボーグはホロコーストの生き残りユダヤ人として、Shoah財団のインタビューを3時間にわたって受けている。彼自身、収容所に入った訳ではないが、故国デンマークがドイツの侵攻を受けた際、家族でアメリカに移住したのである。当時、彼は英語をまったく話せず、かなり苦労したそうだ。
全部見た訳ではないが、彼が反ユダヤ主義について話すのを聞いていると、イスラエルが公然とジェノサイドをおこなっているいま、もし彼が生きていたらどんなことを言っただろうかなどと想像してしまう。
デンマークにいた頃のボーグのコメディ映画を見つけた。彼にとって亡命は辛い選択だっただろうが、この映像を見る限り、アメリカに渡ってこその大成功だったのかもしれないとも思う。人間万事、塞翁が馬ということか。
それにしても、ボーグが見せてくれたようなクラシック音楽のコントは、ずっと昔にはあったように思うが、もう絶滅してしまったのかもしれない。冗談音楽を愛する者としては、誠に残念である。クラシック音楽の美味しいところ、楽しいツボをよく知った「笑い」のプロが、プロの音楽家には絶対真似できない「芸」を楽しませてくれることを期待してやまない。