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【気になる演奏家】サンティアゴ・バッレリーニ(T)

 カマレナが歌うトスティの歌曲についてnoteを書いたら、俄然トスティ熱が再燃した。手持ちのディスクを聴き直すのでは飽き足らず、YouTubeで動画を検索して夜な夜な楽しんでいる。トスティの歌曲がどれほど人を歌へと惹きつけるのかを改めて実感しているところだ。

 そんなトスティ探索の中で、きらりと光る歌を見つけた。アルゼンチン出身のサンティアゴ・バッレリーニが歌う「暁は光から」と「君なんかもう」である。

 のびやかで軽く、カラリと明るい声、張りと輝きのある高音、気品漂う端正さと哀愁をたたえた抒情的な歌いくちがほかにない魅力を持っていて、惹き込まれてしまった。まだ若い人なのだろう、表現はまっすぐすぎるくらいにまっすぐで、さらに奥行きや深みを求めたい気もするけれど、いやいや、このちょっと硬めの抒情にこそ彼の良さがあるのだろうとも思う。

 となると、ほかにどんな歌を歌っているのかに興味が出て、検索を重ねることになる。どうやら彼はロッシーニを得意としているらしい。その中で、素晴らしい動画があって、夢中になってしまった。故国の劇場テアトロ・コロンで歌った「アルジェのイタリア女」の「美しい恋人のことをしのびながら Languir per una bella」。古いタイプのマイクを片手に、歌と仕草で女性たちを気絶させてしまうという演出が粋(朝ドラ「エール」で山崎育三郎がウィンクで女性を気絶させていたのを思い出した)だが、とにかく声が良くて、歌もうまい。

 かつて岩城宏之がマリオ・デル・モナコの歌のセクシーさを感じるために女性に生まれたかったとエッセイで書いていたのを思い出す。デル・モナコ狂の私でも岩城の心は理解できないのだけれど、ただ、この歌の魅力を女性の立場で聴いたらさぞかしクラクラするだろうとは思う。

 この人のインスタを見ると、ロッシーニやベッリーニのベル・カント・オペラだけではなく、最近は「魔笛(タミーノ)」や「ばらの騎士(テノール歌手)」にも出演、ノセダ指揮の「カルミナ・ブラーナ」にも起用されるなど、活躍の場を着々と広げているようだ。

 ネットで検索してもまだ来日したという情報はなく、さほど知られた存在でもなさそうだけれど、彼が「スター」として人気を博する日はそんなに遠くないんじゃないだろうか。先日、パリ・オリンピックで素晴らしい歌唱を聴かせたバンジャマン・ベルナイム(来年の1月に来日予定)、DGから最近デビューしたジョナサン・テテルマンなど、注目のテノールが続々と出ていて、バッレリーニを含めた活況が楽しみだ。

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