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今日はいつもより遅い電車に

乗ったおかげで、2週間ごとに行われるホヤの投下に出くわすことになった。

「投下を行います」といきなり目的語抜きのアナウンスとともに、25センチ間隔で天井に穴が開き海のパイナップル、ホヤが落ちてきた。

珍しく座れた日だったので、ひとまずホヤよりも人々の反応を観察することにした。

好物なのであろうたまらず喰らいつく人、
左手に軽くホヤを握ったまま再び文庫本を右手で読み始めた人、
落下時に肩に当たり、その部分の匂いをしきりに嗅いでいる人、
二つ拾い上げたうち一つを隣の人に譲っている人、

など様々で、ストレスの吹き溜まりの電車に雪解けか啓蟄か、人々の距離感を縮める和やかな空気ができ始めていた。

がしかし、本当の問題は磯の香りが車内にびっしりと充満することにある。その濃さたるや、目にしみて涙がでてくるほどで、ハンケチを口に押し当てたままぐったりしてしまう人も散見される。

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