久々にデパートに入っている
書店に行った。
そこで立ち読みをしている人の中に、ちょっと目立つというか、気になる人物を見かけた。
カストロコートというのだろうか、紺色の作業着を着込んだ50代位の男性で、太い眉、深く焼けた赤黒い肌、痩せこけた頬に、白髪の混じった無精ひげが生えたその容貌は、日本人というよりベドウィンの民のようでもある。
服と同じ紺色のキャップを目深に被っており、額のところに何かプレートのようなものがついていた。
あーなるほど、立ち読みしているのも地図のようだし、普段は市場でセリをしているおじさんが、配送先の住所かなにか急ぎの調べ物でもあって、立ち寄ったのかと納得しかけた時に、プレートに大きく「台風」とだけ書かれているのが見えた。
10分ほど迷ったのだが、あまりに気になったのでおじさんに歩み寄り、小声で「台風なんですか」と訊いてみた。
おじさんはギョッとしてこちらを見たが、こちらが表情や物腰で敵意が無いことを伝えると、微かに眼を細め無言で頷いた。
そして仕事に戻るのか、そそくさと立ち去ってしまった。
去り際にこちらに軽く手を振ってくれたので、嫌がられた訳ではなかったようだが、話がしたかったなぁ、野暮な質問だったかと思いつつ、翌日天気予報を見ていると、大型台風が関東地方に上陸すると言っていた。
だとするとあのおじさんは台風の先導役なのか。
それともおじさんが台風の本体で、すごい風やら雨やらは尻尾のようなものなのだろうか。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?