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【幼児教育】子どもの教育にお金をかけるべきタイミングは◯◯前

アメリカ合衆国建国の父と呼ばれるベンジャミン・フランクリンは下記のような名言を残しています。

「教育は高くつくと言うなら、無知はもっと高くつく」

突然ですが、下記の子育てに関する項目のうち、どれが間違いかわかるでしょうか?

  • 幼児教育や就学前教育はしても意味がない

  • IQの高さや学力の有無は子どもの成功には欠かせない

  • 「やり抜く力」は先天的な才能だから努力しても伸ばせない

これらは全て間違いです。

本noteは下記の書籍を参考に、科学的エビデンスを挙げながら子育てに関する知見を紹介しています。

▼ 参考書籍
中室牧子『「学力」の経済学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2015)
https://amzn.to/36WJ0qK

著者の中室牧子氏は、経済学者であり慶應義塾大学の教授です。本書では科学的なエビデンスに基づいて、教育を経済学的な視点で分析されています。

お忙しい方は、最後に結論だけをまとめているので、そちらだけでもご覧ください。

教育は投資と同じ

文部科学省によると、子どもが大学を卒業するまでに家計が負担する平均的な教育費(住居費等以外)は、全て国公立でもおよそ1,000万円。全て私立になるとおよそ2,500万円にもなるとされています。

参考:子供の学習費調査丨文部科学省
参考:教育費に関する調査結果丨日本政策金融公庫

また、日本政策金融公庫の調べでは、子どもがいる家庭においては年収のおよそ40%も教育費に使っているとされています。

そもそも、なぜ親は子どもにそこまでお金をかけるのでしょうか?

経済学的な視点でみると、親が子どもの教育にお金をかける理由は「将来子どもは高い収入を得るだろう」という期待から、今子どもの教育費としてお金を使うのです。

つまり、子供の教育にお金を使うのは「将来値上がりすると期待して株を購入する」ことと動機は同じであると考えます。

この考え方は1992年にノーベル経済学賞を受賞しているシカゴ大学のベッカー教授が提唱した「人的資本論」に基づいています。人的資本論では、教育は経済活動として捉え、将来のための「投資」として考えるのです。

費用対効果が最も大きいのは幼児教育

では、その教育の便益が最も大きくするには、「いつ」お金を投資するべきなのでしょうか?

結論から言うと、教育投資で最も収益率が高いのは、小学校に入るまえの幼児教育(就学前教育)です。

教育費を投資として考えると、その収益率は子どもの年齢が低いときほど高いことがわかっています。そして、最も高いのが就学前であり、その後は右肩下がりになっているのです。

本当に幼児教育は効果があるのかを確かめた「ペリー幼稚園プログラム」

「でも、本当に幼児教育って効果あるの?」

と感じる方もいるかと思います。そこで参考になるのが、実際に実験として幼児教育を行った「ペリー幼稚園プログラム」です。

2000年にノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のジェームズ・ヘックマン教授は、ミシガン州のペリー幼稚園で行われたある実験に注目しました。

それが就学前教育プログラムであるペリー幼稚園プログラムです。このプログラムでは、所得が低いアフリカ系アメリカ人の3歳から4歳の子どもたちに「質の高い就学前教育」を提供することを目的に行われました。

ペリー幼稚園プログラムでは、学歴・年収・雇用などで大きな成果を挙げており、その効果も長期的に持続することがわかったのです。

子どもの「学力」や「IQ」は重要ではない?

この実験結果を聞くと「幼児教育によって子どもたちの学力が上がり、結果的に成功したのだ」と考えるかもしれません。

しかし、ことはそう単純ではありませんでした。

「学力」や「IQ」といったテストで測ることができる能力を「認知能力」と呼びます。ペリー幼稚園プログラムでは3歳から8歳ごろまでは認知能力を高めることができましたが、その効果は8歳以降になると失われてしまい、長期的に持続することはありませんでした。

つまり、ペリー幼稚園プログラムでは、学力やIQなどの認知能力には短期的にしか影響を与えなかったにも関わらず、学歴や年収、雇用などにおいて長期的にポジティブな影響を与えたのです。

子どもの「非認知能力」を伸ばすことがカギ

では、なぜペリー幼稚園プログラムでは学歴や年収、雇用で効果をあげたのでしょうか?

その秘密は子どもの「非認知能力」にあります。

非認知能力とは、認知能力とは異なりIQや学力テストなどでは計測できない、子供の将来や人生を豊かにする能力のことです。具体的には、下記のようなものが挙げられます。

  • コミュニケーション能力

  • 忍耐力

  • 社会性

  • 道徳性

  • 自尊心

  • 創造性

  • 意欲

非認知能力は、人間の気質や性格的な特徴ともいえるでしょう。

ヘックマン教授は、こういった学力テストやIQテストでは計測できない非認知能力が、人生の成功においてとても大切であると語っています。

非認知能力のコミュニケーション能力と創造性については下記の
 ■【EQ】共感能力・コミュ力が低い人の特徴
 ■【誰でも可能】◯◯だけで創造性と共感能力が高まる
で詳しく解説しているので合わせてご覧ください。

さらに、

  • 誠実性

  • 忍耐力

  • 社交性

  • 好奇心

などの非認知能力は、人から学んで獲得するものであるとしています。

IQや学力がどれだけ高くて頭が良かったとしても、不誠実で不真面目で、やる気にも欠けており、コミュニケーション能力がない人間が社会で成功で成功することはないでしょう。

成功に必要な非認知能力① 自制心

非認知能力にはいくつも種類がありますが、成功に欠かせないものとして挙げられるもののひとつが「自制心」です。

成功するためには自制心が重要な意味を持つことを示す実験があります。それが「マシュマロ実験」です。

コロンビア大学の心理学者であるミシェル教授は、当時働いていたスタンフォード大学内の保育園で186人の4歳時の自制心を下記のような方法で測りました。

  1. 子どもは机とイスだけがある部屋に通される。机の上にはお皿があり、マシュマロが1個入っている。

  2. 実験者は「私は用事があるから外にでる。そのマシュマロは君にあげるけど、私が戻るまで15分間食べるのを我慢したら、マシュマロをもうひとつあげる。それまでに食べたら2つ目はあげないよ」と伝えて部屋を出る。

  3. 子どもの行動は隠しカメラで観察する。

実験の結果、186人のうちおよそ3分の1は15分間食べずに我慢して2つ目のマシュマロをもらいましたが、残りの3分の2の子どもたちは我慢できずにマシュマロを食べてしまいました。

この実験のおもしろいところはここからです。

その後、子どもたちの人生を追跡調査したところ、高校生になるころには大きな差が生まれていました。

マシュマロを我慢できた子どもたちは、できなかった子どもたちよりもSAT(※1)のスコアが高かったのです。

※1:SAT…Scholastic Assessment Testの略。アメリカの大学進学希望者を対象とした試験のこと。

自制心よりも経済的環境が影響を与えている可能性も

マシュマロ実験は注目を集め、「自制心を身につけることで成功することができる可能性が高まる」と考えられるようになりました。

しかし、2018年にマシュマロ実験を検証した結果、自制心よりも経済的環境や社会的環境の方が子どもの成功に大きく影響を与えている可能性が指摘されました。

ニューヨーク大学のテイラー・ワッツ氏、カルフォルニア大学のグレッグ・ダンカン氏とホアナン・カーン氏は2018年にマシュマロ実験が本当かどうか検証する実験を行った結果、「マシュマロ実験の効果は限定的」という結論に至っています。

彼らはマシュマロ実験は疑わしいとして、さらに正確な検証をするために子どもたちの数を900人以上に増やしたうえ、人種・民族性・親の学歴などの点をアメリカ国民を反映したものとしました。

この最新の研究では、「自制心が成功を呼ぶ」というオリジナルのマシュマロ実験が示唆する効果は限定的であるとされました。

子どもがマシュマロを我慢できたかどうかは、子どもの自制心より子どもが経済的に恵まれていたかどうかのほうが重要だったのです。

貧しい家庭で育った子どもの場合、「今日食べ物があっても明日もあるとは限らない」という可能性に曝されている上に、経済的な理由から「買ってあげる」という約束が守られない経験をしている可能性があります。

これにより貧しい家庭で育った子どもの場合は、目のマシュマロを食べることは正しい行為なのです。

したがって、子どもの成功には親の経済的環境が重要であるため、お金について学ぶ必要があるでしょう。お金については、

で詳しく解説しているので合わせてご覧ください。

参考:子どもの自制心が将来を左右するという「マシュマロ実験」が再現に失敗丨GIGAZINE

成功に必要な非認知能力② やり抜く力

続いて、子どもが人生で成功するために必要とされる非認知能力が「やり抜く力」です。

別名「GRIT」とも呼ばれる力で、ペンシルベニア大学のアンジェラ・ダックワース氏の著書『やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』がベストセラーとなり、注目を集めました。

やり抜く力とは、「遠いゴールに向かって情熱や興味を損なうことなく、努力し続けることができる気質」と言い換えることができます。

ルックスや身体的健康、IQよりも重要なGRIT

心理学者であるダックワース氏は、「誰が成功し、それはなぜか?」という謎を明らかにするために下記のような数々の研究を行いました。

  • 陸軍士官学校でどの士官候補生が訓練をやり抜き、誰が途中で諦めるのか

  • 全国スペリングコンテスト(※2)では、どの子どもが勝ち残るのか

  • 教育困難校(※3)の新人教師を調べ、どの教師が学年が終わるまで教えることができ、誰が生徒の学習成果を上げられるのか

  • 最も仕事を続け、お金を稼げる販売員は誰か

※2:スペリングコンテスト…子どもたちを対象とした英単語のスペリング(つづり)力を競う大会。
※3:教育困難校…生徒の授業態度や学力の低さ、非行や暴力行為などの問題行動が原因で教育活動が難しい状態の学校。

このように、さまざまな分野で成功する人を調べていくと、ある1つの特徴が成功を左右していることがわかりました。

それは見た目の良さや身体的健康、社会的知性、IQでもありません。

それこそ「やり抜く力」だったのです。

参考:アンジェラ・ダックワースの経歴やwiki風プロフィール、年齢は?『やり抜く力』が成功の秘訣丨Ailie Style

「やり抜く力」を養うのは?

では、どうすれば「やり抜く力」を養うことができるのでしょうか?

ダックワース氏によると、残念ながらまだ明確な方法はみつかっていないそうです。

しかし、「やり抜く力」は「才能」とは違うということがわかっています。

その上で、ダックワース氏が「やり抜く力」を養うのに最も良い方法は「成長思考」だとしています。「成長思考」とは、スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック氏が発見したものです。

ドゥエック氏の研究によると、「自分の脳力は生まれつき変わらないのではなく、努力によって伸ばすことができる」と信じる子どもは「やり抜く力」が強いことがわかっています。

つまり、私達の能力は良くも悪くも考え方1つで変化するのです。

実際、ある研究では「歳を取るにつれて記憶力は悪くなる」という記事を読んだ人と読まなかった人を比べると、記事を読んだ人のほうが記憶している単語料が少なかったことが明らかになっています。

結論まとめ

  • 大学卒業までの教育費は1,000~2,500万円

  • 教育投資で最も収益率が高いのは、小学生に入る前の幼児教育

  • 子どもの「非認知能力」が成功のカギを握る

  • 「やり抜く力」がある人ほど成功している

  • 「やり抜く力」を養うには「成長思考」が重要

教育・子育ての教養マガジン」では、下記のような親が知っておくべき教養を紹介しているのでぜひご覧下さい。

また「勉強法・学びの教養マガジン」では、子どもが知っておくべき教養を紹介しています。


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