「これがあったら」「こうしたら」をカタチに。
「想いを叶えるリハビリと看護」との理念で、神戸市長田区で多岐に渡る事業を運営しているPLAST(プラスト)。代表の廣田恭佑さんへのインタビューです。
デイサービス、保育園、重度障害のある子ども対応の場、役所内に子育て支援、さらにはチョコレート店まで…。長田区内だけで幾つもの事業を展開しているPLASTの存在を知ったのは、はっぴーの家ろっけん再訪の前夜。突然でしたが、連絡を取ってみると「予定を確認してみないと分かりませんが、大丈夫だと思います」とのこと。翌日「16時過ぎに長田に戻れると思います」との連絡を廣田さんから頂いたのでした。
久遠チョコ神戸店へ
15時前、2年ぶりの新長田駅。まずはPLASTが運営する「久遠チョコレート神戸店」です。10月にオープンしたばかり。
「久遠チョコレート」とは、障害のある人の雇用の促進と低工賃からの脱却を目的に、愛知県内で夏目浩次さんが創業。2014年の事業開始後、5年で全国33拠点を超える店舗数に。エシカルでピュアなチョコレート商品が店頭に並びます。
店内では2名の若い女性がスタッフと話しながらチョコレートを選んでいたところ。店内に入ると、男性スタッフから「いらっしゃいませー!!どうぞ」と話しかけられます。
チョコの種類がとにかく豊富!デザインもおしゃれで、プレゼントされたら嬉しくなれる商品がズラッと並びます。
「僕はお茶をよく飲むので、一押しは『ほうじ茶』です。小さいお子さんであれば、この苺の…」と、男性スタッフがおすすめ商品を教えてくれました。店内の写真を撮りたいことと、廣田さんに会う旨を伝え、男性スタッフと名刺交換。お名前は加藤さん。左手足に麻痺―障害がありました。大学生の時にくも膜下出血で倒れた後遺症。にもかかわらず、店頭に立って接客をし、私とのやりとりを終えると「後々はチョコレートを作れるようになりたいんです」と店内の作業スペースへ。まだ22歳。これからです。
「16時20分には久遠チョコ神戸店へ着けると思います」と廣田さんからメッセージが。お店の前で待ち合わせ、場所を移してお話を伺いました。
短時間型デイからカフェ、障害、子育て支援…
大学を卒業し、理学療法士の資格を保有した廣田さん。PTとして回復期リハの病院に勤務。4年目にはパーソナルトレーニングを始め、退院後をフォローをする活動も始めました。起業し、デイサービス「プラスト新長田」を2014年に設立します。PTによるリハビリ専門のデイサービスで、短時間、1日二回転の運営。今年夏、プラスト新長田はリニューアル。利用待機している方々も多く、敷地面積も広げ、新しい設備も設置されたといいます。
(廣田さん)「デイを経営しつつ、フォローの面でパーソナルトレーニングは続けていたんですけど、リハビリをしても、元気になる人、そうでない人が出てきてしまう。デイの時間外で、利用者さんに僕らが関わることがありません。そこで訪問看護事業所を開設して、“訪問”していました。デイを利用している男性を見ていて気づいたのが、3時間デイにいても、実際身になる、運動できるのは1時間だということ。1時間を濃密にしたほうがいいと思い、“リハビリモンスター”を始めたんです」
(商店街のなかにある「リハビリモンスター神戸」)
退院後のフォロー、要支援の人を専門にした介護予防特化型のデイサービス「リハビリモンスター」。現在は2事業所あり、神戸では一日6回転、芦屋では4回転という効率の良さです。
「回復期でリハビリをし、デイを活用しつつ“卒業”を目指していきますが、そこでさらに必要なのが“社会参加”と“活動”でした。その一環で『カタテバル』といったイベントも開催したんです」
カタテバルとは、片麻痺シェフが厨房に立ち料理を振舞うという一日限りの料理店。「できない」よりも「できる」を見つけ、それをみんなで応援する。何よりもみんなで楽しい区間を共有することをコンセプトにしているといいます。区内の六間道商店街にあるレンタルスペース「r3」で2018年、2019年9月に開催されました。
(今年は形を変えて、11月22日に「カタテワークショップバル2020」が開催予定です)
―はい。
(廣田さん)リハビリモンスターを開設したのち、福祉用具貸与をしていた事業所譲渡がありました。そこは外観も店舗内も”福祉”の色合いが強かった。見に来る人もいないだろう、お店に「入りたい」って思われないだろうと、全面的に改修し「フィジオデザイン」として新しくオープンさせたんですね。同じ敷地内にある「PHISIO DESIGN BASE」はカフェと工房を併設していて、物販販売もしています。
訪問看護事業所を立ち上げたというのは、成人専門の理学療法士もいたからこそだったのですが、小児専門の理学療法士が入社してくれました。聞けば「地域できちんと小児を診てくれるところがない」。軽度な障害をもつお子さんを対象とする事業所は幾つもありますが、重度の障害のある子どもに対応できる事業所はありませんでした。それならばと重症心身障害児対象の児童発達支援・放課後等デイサービス「ヒミツキチ」を開設しました。
もともとヒミツキチにカフェを併設するつもりだったんですけど、“企業主導型保育園”という制度を知り、女性スタッフの需要もあったことから、健常児型と障害者型をあわせもつ共生型の保育園「ジャングル・ラボ」を開設することにしました。その後、区長から「こういう広場をつくりたい」と話があって、弊社の取組みや意義と合致。地域柄を含め、子どもとどう関わっていきたいかをプレゼンし、コンペを通って出来たのが長田区内にオープンした屋内公園「おやこふらっとひろば ながた」です。
自身の関心ごとへ…
ヒミツキチを開設し、重度の障害をもつ子どもを見ていて「この子たちの将来はどうなるんだろう」って思ったんですよね。僕自身に子どもができたこともありますが、重度の障害がある子どもたちにしか出来ないことって何だろう?と。アートに可能性を感じるのもそこで「しょうぶ学園」の存在がいま非常に気になっているんですけども…。
「久遠チョコレート」の存在を知り、愛知県の本店へ見学に行って「斬新やな」って思ったんです。神戸店はFC店ではありますが、僕らならでは、身体不自由の人でも作業管理はできるんじゃないか。先ほどお会いになった加藤…ああいう店で、身体に不自由な人が働いているって珍しいですよね。リハビリという要素もあるんですけど、今後は高齢者も受け入れ、様々な人が活躍できるようにしていきたいと考えています。
これまでの経緯
2014年 会社設立 デイサービス「プラスト新長田」
2015年 「プラスト訪問看護ステーション」
2016年 接骨院「ぷらすトほねつぎ」(現在は売却)
2017年 デイサービス「リハビリモンスター」
2018年 重症心身障害児対象の児童発達支援・放課後等デイサービス 「ヒミツキチ」
2019年 企業主導型保育園「ジャングルラボ」
2020年 福祉用具・カフェ・工房 「フィジオデザイン/PHISIO DESIGN BASE」/ 長田区との連携事業「おやこふらっとひろば ながた」/久遠チョコレート神戸店
―こうして事業展開を整理してみると、ノンストップ。次々と事業展開されておられますが、気持ちの変化もあったんでしょうか。
様々な人たちに関わるごとに「これがあったらいいのに」という思いが出てきます。課題を発見し、そこにハマるパズルを当てはめていく感覚で事業を展開させていったら、こうなっていた…というところでしょうか。
―それなりにスタッフの人数も必要ですし、事業展開のスピードについてくるスタッフも必要ですが、人材確保の点では。
SNSの発信をみていて「来たい」と言ってくれたスタッフもいますし、カタテバルなどのイベント、交流会や各セミナーもしてきました。そこで出会い、入社してくれたスタッフも多いですね。
―御社が開催するイベントに実際に参加しているからぶれない。廣田さんの思いに共感し、考えも理解しているスタッフが多いのでしょうね。
地元情報サイトでのインタビューを拝見したんですけど、「(カタテバルを行った)r3で、建築家やデザイナーなど多様な人と出会い、刺激を受けた」とおっしゃられていますが、その刺激とは何だったのでしょう。
根本、PTという枠に囚われていたと感じるんですね。PTの役割―身体機能の改善という部分だけを見ていたというか。僕たちが触って治すというところから、社会や環境が変わることで、僕らが触れなくとも治っていくと。空間やデザインのもつ力がそこに関わってくるのだと知りました。僕たちが関わる時間なんて限られるじゃないですか。週に一度や二度、短い間。“予防”と謳いながら予防になっていないと感じる面もありました。元通りに戻ってしまうか、あるいは依存。「それって社会に良くないよね」という思いを抱えていて…。その解決の糸口がデザインというものだったと思うんです。r3には色んな人がやってきます。子育て中のママが多く訪れる。あの雰囲気。シルバーカーを引いて、自分の子どもじゃないのに、小さい子を見に来る。おばあちゃんがわざわざ来るんです。子どもを見るために。「これが目的になるんやー!」って。意図せずに創り出しているわけですよね、そんな状況を。これこそ究極。誰かにさせられている感もない。
しかけというか、行動経済学とか僕自身学びながら「面白いな」って感じていました。
―r3の合田さん夫妻、はっぴーの家ろっけんの首藤さん…。長田区内で人がつながって、おもしろいまちになっていっている。地元情報サイトでのインタビューで、廣田さんがご自身の活動を「町支えです」と仰っていた。いい表現だなぁと思いました。
そもそも、医療・福祉というものが関わるスタートは“マイナス”地点から。元気になった人は支える側になってほしい。それが“町支え”という考えでもあるんですけど、マイナスの部分をニュートラルに押し上げるのが僕らの役割だと考えているんです。
―区役所内に開設された子育て支援の場については、どんな考えを?
現在はコロナの影響で難しいところがあるのですが、「多世代交流」は重要だと思いました。ご存知の通り、長田区は多国籍文化のあるまちです。世代も様々。先ほども言いましたが、保育園を開設したあたりから、教育にも興味が出たんです。「この子たちがより良く育つには何が必要なのだろう?どう刺激があったらいいんだろう」って。それこそ、文化が違うありさまだとか、背景の違う人との触れ合いだとか、そういうものに幼い時から触れることができたらいいんじゃないかって思いました。僕自身が留学させてもらったり、自然と戯れる環境だったり、自由にさせてもらい育ってきましたから。僕自身、発想が得意なほうだと思っているんですけど、その背景には育ってきた環境も影響しているのかもしれません。自分がいいと思う道をつくる、つくっていく…そういうのが個性にもなっていく。
これから
今後についてですか?現在、この商店街で6店舗運営しているんですね。どこか空いたら「空いたよー」って声をかけてくれる。商店街組合の理事にもなりました。久遠チョコレート神戸店を立ち上げるときは「チョコレート?」って驚かれましたけど、いい感じのスタートを切ることができました。「僕らが入ったほうが面白くなる」と思っています。商店街全体、“成長したい”という雰囲気ではないんです。組合の会議でも書記に手を挙げる人がいません。「それならやります」って弊社のスタッフが議事録をとっていったんですけど、理事の高齢化も進んでいるんですね。であるならば、動ける人が動いたほうが面白くなる。“やってみたら”“いいよ”と言ってくださるならば、僕らは新参者ですけど、リーダーシップをとっていきたいですね。長田のまち、面白いですから。
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“はっぴーの家ろっけん”を訪問する時間も近づいてきており、インタビューはスピーディーに進めさせてもらい恐縮だったのですが、さすが若手の経営者、廣田さん。サクサクと受け答えをしてくださいました。
阪神淡路大震災で甚大な被害を受けた長田区。大規模な再開発事業は落ち着いたものの、商店街を盛り上げてきた人たちは高齢化していく。誰かが動いていなければ、衰退するだけ。まちの課題、暮らす人のニーズを的確にキャッチし、どう在ればいいのか、どう応えていけばいいのかを丁寧に考え、事を動かし続けているのが、廣田さんなのでしょう。
まちをつくる、まちを動かすのはひと。その“ひと”の在り方でいかようにもなる。
「これ、あったらいいんじゃない?」の構想やその実現は、これからも続いていきそうです。
(※インタビューは2020年10月22日に行いました)
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