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PASSION 心地よい場所 やさしい気持ち。
海谷会長に話を聞き終えて、時間は12時。協会に面した商店街を歩き、小さなバールでアセロラジュースとスナックを食べてランチとする。
アマゾンの風が通り過ぎ、赤土の匂いが混じるトメアスーの一本道。サンパウロやマナウスの都会とは異なった、ブラジルの田舎の匂いが心地良かった。
再び協会を訪ね、「開拓の森」と名づけられた保管地区や日本語学校を見学させてもらったあと、協会内にある体育館のような場所をのぞいたときだった。
「どうぞ、見学していってください」
声をかけてくれたのは、体操の講師を務める三宅昭子さん(67)だ。1962年に青森県からベレンに移住したという。
体操が終了したあと「うちへ来ませんか」との誘いをもらい、三宅さんの自宅へ伺わせてもらった。
三宅さんの自宅は鮮やかな花をつけた植物に囲まれている。敷地は広く、アサイーやクプアスーなどアマゾン特有のフルーツがたくさん実をつけている。菜園もあり、陸ガメも悠々と広い囲いのなかを歩いていた。
「ムルシーのジュースを作りましょうか。下に落ちている黄色の実を拾いましょう」
木の実がくり抜かれたものを受け皿にして、三宅さんとムルシーの実を拾う。
その実を絞り、砂糖を加えてできたジュースはとってもジューシー。病気を治すというノニのジュースをペットボトルに入れて持たせてくれた。
「明日は何時のバスでベレンに戻るの?旅の無事を祈っているから、気をつけて」
夕食も出してくれようとした三宅さん。だが夜は約束があった。
三宅さんに出会う直前、明日トメアスーで講演をするためにベレンからトメアスーにやって来たJICAシニアボランティアの形山さんという女性に出会っていた。片山さんから、青年海外協力隊としてトメアスーで日本語教師を務める南さんと夕食を一緒にどうかと声をかけてもらっていた。
南さんが行きつけのピザ屋に連れて行ってくれ、3人で談笑。近くには小さな観覧車のある遊園地があり、射撃ゲームをして遊んだ。アサイーとクプアスーのアイスクリームを形山さんがごちそうしてくれる。
「明日、もうベレンに戻っちゃうんだよね。トメアスーはいろんな人がいて、いろんな人生話が聞けるから、もっといられたら良かったのに」
南さんが言う。
そうなのだ。これほど濃い時間を過ごせるとは思っておらず、明日トメアスーを去るのが惜しかった。
翌朝、出発の準備をしていると宿に南さんがやって来た。
「これ、持っていって。重いと思ってひとつだけなんだけど」
渡されたのは、瓶に入ったトメアスー産のクプアスーのジャムだった。それに旅のお供にと、チョコレートが袋に数個入っていた。
形山さんからもマンゴースチンやオレンジなどのフルーツをもらっていた。
優しさに感謝しながらバス停へ向かった。バスはすでに停車していて、私は一番前の席に座って、出発を待っていた。
「なほさん」
名前が呼ばれ顔を上げると、三宅さんが立っていた。
「昨日、こしらえたの。食べてね」
パックのなかにはおまんじゅうが6個入っていた。
ひざが悪いのに自転車でわざわざ来てくれたのだ。バスの出発時間を昨日聞かれたが、このためだったとは。
この村を 支えて傘寿 花胡椒
三宅さんがトメアスー入植80周年記念俳句大会で特選をとった句である。